(7)「彩香は邪魔」刑事に言わされた

検察官「あなたは自分の娘である彩香ちゃんに将来どういう風に育ってほしいと思っていたか?」
鈴香被告「…そのまま、人に気を使う優しい子であってほしいと思っていた」
検察官「そういう子に育っていた?」
鈴香被告「はい」
検察官「実際、彩香ちゃんにはどういうことを身につけて欲しいと思っていた?」
鈴香被告「普段あいさつできる子供とか。勉強は個人差があるのである程度はしようがないが、食事を外や友達の家で食べたとき、きちんと『ごちそうさま』『いただきます』といえる子供になってほしいと」
検察官「どういう教育をしてきたのか?」
鈴香被告「私だけでなく、弟や母も食事の時のマナーは特に気をつけて、ひじをつかないようにとか、皿をはしで引っ張らないようにとか」
検察官「人に気を使う優しさという観点からは?」
鈴香被告「そのまま素直に育ってほしいという感じで」
検察官「彩香ちゃんとできるだけ会話をしようとかは考えなかった?」
鈴香被告「できるだけ会話してきたつもりだ」
検察官「そのつもりだった?」
鈴香被告「はい」
検察官「4月9日に彩香ちゃんが橋から落ちたとき、いつになく聞き分けがなかったということだったが」
鈴香被告「はい」
検察官「普段からわがままが多く、育てにくい子ではなかった?」
鈴香被告「はい」
検察官「4月9日以前にダダをこねることはあった?」
鈴香被告「ほとんどない。まったくないとは言い切れないが…」
検察官「たとえばどんな?」
鈴香被告「…たとえばですか?」
鈴香被告はしばらく考え込んだ。
検察官「全くないとはいえないんでしょ?」
鈴香被告「少ないから覚えていないのかも」
検察官「それなら逆に印象に残っているのでは?」
鈴香被告「…わがままを言ったりしたこと?」
検察官「ダダをこねたりは?」
鈴香被告「4月4日と3月中旬くらいに、『学校に行きたくない』というようなことを2度言った。あとは『トランペットを買ってほしい』と言ったことがあった。そういうのはクリスマスとか誕生日とかに大きなものを買ってあげることにしていたので、特にわがままとは思っていなかった」
検察官「ダダをこねて何が何でもではない?」
鈴香被告「はい」
検察官「学校に行きたくないと言ってた日はどうしたの?」
鈴香被告「春休み中だったので。『どうして?』とは言った」
検察官「そうしたら彩香ちゃんは何と?」
鈴香被告「『言いたくない』と」
検察官「特にダダをこねた感じとは違うね?」
鈴香被告「はい」
検察官「彩香ちゃんにダダをこねられたり、わがままを言われたりはほとんどないんだね?」
鈴香被告「ない」
検察官「あなたは働かないで生活保護を受けることが心苦しく、働きたいと思っていたということだが」
鈴香被告「はい」
検察官「あなたはどんな将来への展望を持っていたのか?」
鈴香被告「優しい人になりたいと」
生活実態について聞いていた検察側は、思わぬ答えに乗じて鈴香被告の性格を明らかにしようと質問の方向を変えた。
検察官「性格面か?」
鈴香被告「性格面というか、厳しさを持っていてもそれが優しさである、そういう人になりたいと」
検察官「自分はそうではないの?」
鈴香被告「何かというとすぐに当たるようなところがあったので。彩香だけでなく、家族や身の回りの人に対して、きつく当たるようなところがあったので、そういうことをなくして人の悩みを、『ああ、この人は何か悩んでいるなぁ』と察知できる人間になりたいな、と」
検察官「具体的な生活設計は?」
鈴香被告「これじゃいけないと思って、仕事を探して、揺れていた時期もあった」
検察官「家事が苦手ということだが、しっかり家事をしたいと思ったことは?」
鈴香被告「彩香の好きなものはできるだけ作ってあげたいと思っていた」
検察官「仕事をしたいとも思っていた?」
鈴香被告「はい」
検察官「彩香ちゃんを育てなきゃいけないのが仕事をする上で差しさわりになると思ったことは」
鈴香被告「ない」
検察官「本当にないの?」
鈴香被告「…」
検察官「彩香ちゃんのせいで時間が限られるとかは?」
鈴香被告「離婚した当時から子供を抱えて借金を抱えて、どういう風に暮らしていけるか考えていたので、仕事を探す時点で彩香のことは頭に入っていたので、学校の時間に仕事ができるようにしようと考えていた」
検察官「仕事をする上で彩香ちゃんが邪魔ではなかった?」
鈴香被告「はい」
検察官「彩香ちゃんが邪魔だと思ったことはない?」
鈴香被告「邪魔というか、自分から何でもやってくれる子だったので、手はかからない子だった」
検察官「食事は?」
鈴香被告「朝は睡眠薬で起きられなかったが、晩ご飯だけは自分が具合悪くて食べられなくても一緒のテーブルに座ってあげようと思っていた」
検察官「実際そうしていた?」
鈴香被告「はい」
検察官「取り調べ中に彩香ちゃんが邪魔だと言ったことはない?」
鈴香被告「言わされたことはある。『そうだったんじゃないの?』『そうだったんじゃないの?』と言われて」
検察官「自分から言ったことはない?」
鈴香被告「自分から言ったのではなく、『こうだったのではないか』と言われた」
検察官「刑事さんから言われたの?」
鈴香被告「はい」
検察官「現実には母子家庭で嫌な顔をされたことはない?」
鈴香被告「母子家庭というより、藤里町からということで長距離の通勤で嫌な顔をされたことはあるが、母子家庭で嫌な顔をされたことはなかった」
検察官「『彩香ちゃんがいなければ就職しやすいのにと言ったことはあったか』と聞かれ、あったと言った?」
鈴香被告「記憶にないので、あったかもしれない」
検察官「思っていないのにどうしてそんなこと言うの?」
鈴香被告「頭をよぎったということはあったかもしれないが、ずっとその考えにとりつかれていたことはない」
検察官「弁護士に『一人になって東京で働こうとした』と話していないか」
鈴香被告「彩香と一緒に知らない土地に行って生活する自信がなかった」
検察官「1人だったら自信あったの?」
鈴香被告「なかったのでやめた」
検察官「最終的にはあきらめたかもしれないが、思ったのでしょ。違うか?」
鈴香被告「…違うと思う」
かみ合わない鈴香被告と検察側のやりとりに、ここで裁判長が質問する。
裁判長「なぜ2人で東京に行こうと思わなかったのか」
鈴香被告「そこがどういう保育態勢、学校態勢か、授業の後に預かってくれるのか、とかいろんな面でわからないことだらけだったので、最初は1人で行こうと。もし向こうで調べた結果、彩香と一緒に、たとえば寮とかで暮らせるのなら、彩香を弟から引き取って生活しようという気持ちはあった」