(29)「豪憲君不明」をマスコミにメールしていた
米山豪憲君の首を絞めた時間を「10分程度」としていた鈴香被告は、被告人質問に入ってから「5分」と変えた。その理由について、検察官がただした。
検察官「今になって、短い方がいいと思って言った?」
鈴香被告「そんなことは一言も言っていない」
検察官「やっぱり5分に変えようと思ったのは?」
鈴香被告「時間は全部、刑事が『ここは何分、ここは何分』と決めていた。口を出すスキはなかった」
検察官「力がないというが、あなたの豪憲君の遺棄現場の実況見分を見ていた。私がいたこと、覚えてますか?」
鈴香被告「覚えていない」
検察官「自分でも豪憲君の人形を持ったら重かったのに、あなたは軽々と持っていた」
鈴香被告「○○(実名)という刑事に何回も持たされたので」
検察官「力がないとは言えないのでは?」
鈴香被告「自分はないと思っている」
検察官「再現のときより、よっぽど力が入るのでは?」
鈴香被告「黙秘します」
検察官「豪憲君の死体遺棄に関しても、『すべらせるように』と話しているね?」
鈴香被告「はい」
検察官は証拠採用されている現場見取り図を被告に示した。
検察官「遺体はここ。分かるね。こういう形で、ガードワイヤーから先に体を真っすぐにするためには、相当力がいるのでは? 反動がいるのでは?」
鈴香被告「すべっていった」
検察官「現場の再現の段階では、『すべらせるように』という説明を弁護側は不同意にしている。どうしてかな?」
鈴香被告「…」
検察官「あなたが否定したのでは?」
鈴香被告「…」
裁判長「弁護側が不同意にしたんじゃないの? 意味分かる?」
鈴香被告「何となく」
弁護人「主尋問では『すべらせるように落とした』とは言っていない。『思わずすべっていった』と…」
検察官「…そこはいいです。捜査では殺害のことを『手をかける』『あやめる』と言っていた。同じように、『置いた』と好んで言っていなかったか?」
鈴香被告「はい」
検察官「言葉をかたっているだけでは?」
鈴香被告「違う」
検察官「遺棄の場所を選んだのはなぜ?」
鈴香被告「目についたから」
検察官「米代川沿いに車を走らせたとき、がけのような、遺体が発見されなさそうな場所はいくらでもあった?」
鈴香被告「はい」
検察官「わざわざ見つかりやすい場所に置いた?」
鈴香被告「はい」
検察官「なぜ?」
鈴香被告「早めに見つかってほしかったから」
検察官「どうして?」
鈴香被告「眠れない一晩を過ごしたから」
検察官「米代川沿いを選んだのは?」
鈴香被告「目に付いたから」
検察官「警察を動かすため、川で発見された彩香ちゃんとの関連を印象づけたかったのでは?」
鈴香被告「ないです」
検察官「すぐ実家に戻って、何食わぬ顔で食事を作った」
鈴香被告「何食わぬ顔…? 普段どおりの顔をしようと思った」
検察官「実家に行こうと思ったのは?」
鈴香被告「早く戻らなくちゃいけないという気持ち」
検察官「もともと行く予定だった?」
鈴香被告「はい」
検察官「予定通りの行動をする余裕があったということだ」
鈴香被告「手足は震えていたが」
検察官「アリバイ作りをねらった?」
鈴香被告「いいえ」
検察官「手帳では、『5月17日豪憲君がいなくなる 5月18日発見』と人ごとのように書いてある」
鈴香被告「彩香のことも同じように書いていると思う」
検察官「豪憲君のことは覚えているのか?」
鈴香被告「忘れてはいけない日だから」
検察官「書かないと忘れそうだった?」
鈴香被告「黙秘します」
検察官「彩香ちゃんの同級生から豪憲君がいなくなったことを聞き、マスコミにメールした。どういう心理なのか?」
鈴香被告「…これで彩香の件で動いてもらえるという気持ちがあった」
検察官「○○(友人の実名)にはなぜメールした?」
鈴香被告「覚えていない」
検察官「渦中の人になることを楽しんでいるように見えるが?」
鈴香被告「違う」
検察官「団地の家にこの後で行っているが?」
鈴香被告「だれかから連絡が来ると思い、睡眠薬を飲まずに連絡を待っていた」
検察官「カーテンをあけ、家の明かりをつけたのはどういうねらい?」
鈴香被告「家の外は多くの人が集まっていたので、少しでも明るくしようと…」
検察官「豪憲君が家にいないことをアピールした?」
鈴香被告「違う」
検察官「警察も来た?」
鈴香被告「はい」
検察官「彩香ちゃん事件の捜査を求めたか?」
鈴香被告「記憶にない」
検察官「それが目的だったのに覚えていないのか?」
鈴香被告「黙っていても警察は近所だから動いてくれると思った」
検察官「四十九日に取材を受けた心理は?」
鈴香被告「四十九日には(マスコミに)いなくなってほしくて。本当にカメラとかが怖くて、やめてほしくてそういう風な場を設けた」