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Free Space

(19)無反応の被告、検事思わず“実演”、たしなめられる

突然の鈴香被告の涙でちょっとした“混乱”に陥った法廷。欄干の模型から離れて検察側の席に戻った検事が、資料を見ながら次の質問を探した。

検察官「ええっと…。そのときに彩香ちゃんの格好について、手すりにしがみつくというか、ダベっとなるようだったと(前回の質問で)話していたね?」

鈴香被告「…」

検察官「つらいのはわかるけど、(彩香ちゃんの)その体勢がわからない」

検事は、鈴香被告に再び模型を使っての犯行再現を促した。

検察官「手すりというのは、この手すりのこと?」

検察側は欄干の模型を指さすが、鈴香被告は席に座ったまま動かない。

検察官「後ろ向いて!」

模型を見るよう求める検察側だが、鈴香被告は振り向かず、振り絞るように答えた。

鈴香被告「はい…一番上のところにかけている状態」

検察官「欄干に足をかけている状態でどうやってしがみつくの?」

鈴香被告「…」

鈴香被告は検事も後ろの模型も見ない。業を煮やした検事が、彩香ちゃん役になって模型に上り始める。見かねた裁判長があわてて検事を止めた。傍聴席から、思わず苦笑が漏れた。

裁判長「検察官、それ大丈夫ですか?」

検事の体重で模型がゆがむのを、もう1人の検事と刑務官があわてて支えた。

弁護人「子供と違いますから、こういうことやってほしくないです」

弁護側の抗議を受けて、“実演”をやめた検事。ふたたび質問を始めた。

検察官「欄干にしがみつくというのが、よくわからない」

鈴香被告「上るときにしがみつくようなという感じで…」

検察官「これは欄干に上ったときの状態なの?」

鈴香被告「はい」

検察官「振り返ったときの体勢ではない?」

鈴香被告「はい」

検察官「振り返ったときは、あなたの体にしがみつくようにしたの?」

鈴香被告「はい」

検察官「あなたは腰の辺りを支えていた?」

鈴香被告「どの時点までか覚えていないが、支えていたのは事実」

検察官「振り返ったときにはどうだった?」

鈴香被告「その辺までは覚えていない」

検察官「普通なら、落とさないようにずっと支えているのではないか?」

鈴香被告「今だったらこうだろう、と考えられることもあるが、当時は…」

検察官「腰に添えていたときの手は?」

証言台の上で軽く手を広げる鈴香被告。裁判長が写真を撮るよう指示する。

裁判長「実際に添えていたときの手の形がそれだね?」

検察官「これで最後だけれど、立てる?」

鈴香被告に三たび模型を使っての再現を求める検事。

検察官「高さを再現してほしいのだけれど」

裁判長「子供の高さですから。それはわかるのでは?」

裁判長から止められ、質問を変える検事。

検察官「彩香ちゃんが振り返った時のあなたの手は?」

鈴香被告「思い出せない」

検察官「離していたか、持っていたかも覚えていない?」

鈴香被告「はい」

検察官「振り向いて手を伸ばしてきたのは覚えているんだね?」

鈴香被告「はい」

検察官「反射的に左手を振り払って落としてしまったということだね?」

鈴香被告「はい」

検察官「抱きついたとき、両手で(彩香ちゃんを)支えていれば、左手で払ったら空振らないか?」

鈴香被告「わかりません」

鈴香被告は時折、両脇の刑務官に体を支えられるようにして何とか座っている状態。再び裁判長が検事を止めに入る。

裁判長「理屈で言われても…。覚えていないのだから」

検察官「あなたは抱きついてくる彩香ちゃんの方を見ていたのか?」

鈴香被告「いいえ」

検察官「怖かったの?」

鈴香被告「たぶん、怖かったのだと思う」

検察官「逃げようとはしたか?」

鈴香被告「逃げる?」

検察官「抱きついてくるのが怖ければ、逃げようとするだろう?」

鈴香被告「彩香から逃げる…ですか?」

検察官「抱きつかれるのイヤだったんでしょ?」

鈴香被告「考えつかなかった」

検察官「『汗かきの彩香が近づいてくるのが怖かった』と言っていなかったか?」

鈴香被告「はい」

検察官「怖くて逃げようとは?」

鈴香被告「そこまで考えて行動してはいなかった」

検察官「彩香ちゃんの体のどこかに触れたのは覚えているんだね?」

鈴香被告「はい」

検察官「彩香ちゃんの体重はかかってた?」

鈴香被告「そのときには感じなかった」

検察官「(彩香ちゃんが)近づいてきたんだよね?」

鈴香被告「はい」

検察官「だから怖かったんだよね?」

鈴香被告「はい」

検察官「それで手にあんまり力が入った覚えはないの?」

鈴香被告「はい」

裁判長が検事の質問の意図を確認する。

裁判長「今の『手』というのは振り払ったとき? あなたは左手を振り払って彩香ちゃんに当たったとき、体重とか感じたの?」

鈴香被告「当たったという感覚だけで、体重は覚えていない」

検察官「あなたの言い分通りだとすると、彩香ちゃんは上り出して両足を川に出すまで、あなたは積極的に上るのを止めたり、道路に降ろそうとしたとは覚えていないんだね?」

鈴香被告「はい」

検察官「上るのが危険だとはわかってた?」

鈴香被告「はい」

検察官「怖がって抱きついてくることは想像していなかった?」

鈴香被告「はい」

検察官「あなたの弁解では、欄干に乗れば高いから怖がると思ったんだよね?」

鈴香被告「はい。怖がって上らないと思った」

検察官「上っている以上、怖くないだろうと思ったのか?」

鈴香被告「どうしよう…上り始めちゃった、という感じ」

検察官「彩香ちゃんが怖がっているとは思わなかったか?」

鈴香被告「考えていなかった。ただ『どうしよう…』と」

⇒(20)「彩香、『落ちた』というより『消えた』…」