(10)「黴菌って言わないで」「検査したんですか」と検察官に逆襲
検察官「彩香ちゃんが汚い格好をしていて、いじめられるのでは心配にならなかったか?」
鈴香被告「彩香の格好が、汚いとは思わなかった」
検察官「あなたは、彩香ちゃんの格好が汚いとか、臭いこともあったとか言っている。彩香ちゃんがお風呂嫌いで、同じ格好のまま寝てしまうこともあったというが、それにしても心配しなかったのか?」
鈴香被告「はい」
検察官「そういう汚い状態で友達と遊んだり、学校に行ったりすれば、いじめられるとは考えなかったのか?」
鈴香被告「なかった」
検察官「あなたは学校で黴菌(ばいきん)て言われていじめられたんでしょ?」
鈴香被告「そんなに黴菌黴菌って言わないで」
検察官「でも黴菌っていわれてたんだから、(彩香ちゃんのことを)当然気にかけていたんじゃないのか?」
鈴香被告「(彩香ちゃんが)かわいいからこそ、(かわいいと)思えない自分との間のギャップを感じて、悩んでいたことがあった」
検察官「彩香ちゃんの体が汚いときが、かわいいと思えないときなのか?」
鈴香被告「朝、彩香に手をかけることは、睡眠薬を飲んでいた私にとってはつらい作業だった」
検察側の質問と鈴香被告の答えがかみ合っていなかった。
検察官「あなたは彩香ちゃんがお風呂が嫌いだとか言っているが、子供のせいにしないで指導するのが親の役割なのではないか?」
鈴香被告「次の日に着ていく服はランドセルの側に置いていた」
検察官「私も事件後に彩香ちゃんの部屋を見せてもらったが、カビだらけだった。カビだらけの部屋に彩香ちゃんを住まわせていたこと、どう思っているのか?」
鈴香被告「それは、彩香が自主的に掃除をすることを覚えさせるため。何カ月かに1回は、2人で大掃除をしていた」
検察官「そんなに汚くしていたら、いじめられる原因になると思って心配しなかったのか?」
鈴香被告「さっきから、同じ質問ばっかりなんですけど…」
鈴香被告は、少しムッとしたような口調で抵抗した。
検察官「あなたがきちんと答えてくれないからですよ。彩香ちゃんが汚いのは着替えないせいだと言っているが、本当に彩香ちゃんのせいか?」
鈴香被告「親のせいというのもあると思う」
検察官「彩香ちゃんの部屋には、尿がたくさん付いたシーツが放置されていたり…」
鈴香被告「汗じゃないですか?」
検察側の質問の途中で、反論するように鈴香被告が質問した。
検察官「成分検査をすれば、尿と汗は間違えることはない」
鈴香被告「成分検査したんですか。尿だったんですか?」
検察官「…」
鈴香被告の質問に対しては、検察側は答えなかった。
裁判長「尿という認識はないのですね」
鈴香被告「はい」
検察官「わかりました。ところであなたは、友達の家に彩香ちゃんと行ったとき、汚れたおむつを替えなかったということはなかったか?」
鈴香被告「替えのおむつを持って行かなかったということはあった」
検察官「おむつを替えず、ミルクもあげなかったことはないか?」
鈴香被告「すぐに帰るつもりだったので、替えのおむつもミルクも持って行かなかった」
検察官「彩香ちゃんを1人残して、夜中に1人で出かけたことはなかったか?」
鈴香被告「あった」
検察官「彩香ちゃんに対し、『あっちへ行ってろ』と怒鳴ったことはなかったか?」
鈴香被告「ちょっとあっちに行っていて、と言うことはあったが、怒鳴ったことはなかった」
検察官「自然クラブのお客さんに(彩香ちゃんを怒鳴ったことに対し)『なんでそんなことを言うの』と言われ、『私、子供嫌いだから』と答えたことはなかったか?」
鈴香被告「私は怒鳴っていない」
検察官「友達に、『彩香ちゃんの顔が(前夫の)○○(実名)に似てきたから、愛情を持てない』と言ったことはなかったか?」
鈴香被告「ない」
検察官「彩香ちゃんが小学2年のとき通っていた学童保育から、1人で帰らせたことはなかったか?」
鈴香被告「何回かは、あったと思う」
検察官「精神科の医者に、『子供に当たり散らしてしまう』と言ったことはなかったか?」
鈴香被告「『当たり散らす』とは言っていないと思う」
検察官「『かわいいと思えない』と言ったことはなかったか?」
鈴香被告「あった」
検察官「『子供以外に、はけ口がない』と言ったことは?」
鈴香被告「それはない」
検察官「『子供が苦手で、手をつなぐことができない』と言ったことはなかったか?」
鈴香被告「私は汗をかけない体質なので、手をつなぐのが苦手と言ったことはあったかもしれない」
検察官「『子供にすぐ怒ってしまう』と言ったことはなかったか?」
鈴香被告「子供だけでなくて、何か言われるとすぐカッとしてしまうことがある」
検察官「そのようですよね。子供にも(カッとしてしまうことは)あったのか?」
鈴香被告「子供にだけではない」
検察官「今言ったような彩香ちゃんに対する態度と、『いじめられないでほしい、虐待したくない』という思いは矛盾していないか?」
鈴香被告「だから悩んでいた」
検察官「だから、彩香ちゃんに怒ってしまったりするのか?」
鈴香被告「普通の人でもそうやると思う」
午前中の法廷が終了。鈴香被告は、ちらりと母親の方を見ながら暗い表情で退廷した。その後、弁護士側が検察側に対し、「何分の1まで進んだ?」と質問。「今日行う予定の3分の1程度」と答えた検察側に、裁判長も「予備日は必要か?」と尋ねた。検察側は「はい。(予備日の)午前中には終われるようにしたい」と答えた。