(18)法廷の被告“異変”裁判長「あなた、泣いているんですか?」
検察側は、「再現しながら答えてもらいたい」と切り出した。鈴香被告は立ち上がり、欄干(ガードレール)の模型の前に立った。被告人質問と同様に、傍聴席に背を向ける形だ。
検察官「彩香ちゃんと下を見ていたあなたが、どうやって彩香ちゃんが上ったかを全然覚えていないのか?」
鈴香被告「…」
裁判長「今、うなずいたということですね」
検察官「どっちの足から欄干にかけたか、覚えているか?」
鈴香被告「何となく」
検察官「手はどこに?」
鈴香被告は無言で欄干の上部に右手をかける。
検察官「(幅が)15センチぐらいのところに手をかけたんですね?」
裁判長「両手ですか?」
鈴香被告「両手だと思う」
検察官「足はかけたか?」
鈴香被告「欄干のガードのへこみのところに」
裁判長「凹凸になってるけど、下のところにかけたという記憶か?」
鈴香被告「はい」
検察官「そこで(彩香ちゃんは)支えてくれと言った? それとも、その前か?」
鈴香被告「−−(聞き取れず)」
裁判長「聞き取れないので、もう1回聞いてもらえますか」
弁護士の席にあったマイクが、急きょ鈴香被告の立っている近くに置かれた。
検察官「両足か片足をかけている状態で、止めようとしなかったのか?」
鈴香被告「びっくりして、それどころじゃなかった」
検察官「あなたはどうした?」
鈴香被告「どこの部分か分からないが、支えた」
検察官「どこか分からないのか?」
鈴香被告「…」
裁判長「どうですか?」
鈴香被告「腰より下だったと思う」
検察官「高さは?」
鈴香被告「このような形になって…」
鈴香被告が中腰の姿勢になる。
検察官「そんな感じで支え、上へ上げたりした?」
鈴香被告「いいえ」
検察官「支えた手に力は入れていないのか?」
鈴香被告「はい」
検察官「力を入れないと危なくないか?」
鈴香被告「はい」
検察官「じゃあ、力を入れて支えるのでは?」
鈴香被告「…」
検察官「彩香ちゃんは自力で上って、あなたは腰より下あたりを支えていただけ?」
鈴香被告「はい」
検察官「上っているとき、彩香ちゃんの両足は?」
鈴香被告「よく覚えていないが、両足を欄干の外に投げ出した」
検察官「片足ずつ?」
鈴香被告「はい」
検察官「驚いたのは危ないから?」
鈴香被告「まさか足を出すとは思っていなかった」
検察官「手前に倒して抱きしめようと思わなかった?」
鈴香被告「…」
検察官「あなたの手は?」
鈴香被告「覚えていない」
検察官「添えたか?」
鈴香被告「覚えていない」
検察官「添えたかどうかも覚えていないのか?」
鈴香被告「覚えていない」
検察官「あなたが命じて上って、危ないと感じているのに覚えてない?」
裁判長「覚えていないと言っているから…」
検察官「手はどんな状態だったか覚えていない?」
鈴香被告「はい」
検察官「上るのに全然手伝ってないわけ?」
鈴香被告「…」
裁判長「どうですか?」
鈴香被告「黙秘します」
検察官「落ちないように工夫しようとは…」
裁判長が鈴香被告の“異変”に気づいて、質問をさえぎった。
裁判長「ちょっと様子が……。席に戻っていいですよ」
鈴香被告はうつむき気味に、元の席にゆっくりと戻った。
検察官「川に足を出したとき、あなたはどういう格好をしていた?」
鈴香被告「腰のあたりを支えていたと思う」
検察官「両手で?」
鈴香被告「はい」
検察官「落ちないよう力を入れていたか?」
鈴香被告「そう思う」
ここで再び裁判長が口を開き、先ほど感じた“異変”が法廷で明かされた。
裁判長「今あなた、涙流しているんですか?」
鈴香被告「はい」
裁判長「なぜ涙が出てきた?」
鈴香被告「彩香のことを思い出して…」
裁判長「どんなところを?」
鈴香被告「姿を…」
裁判長「元気で遊んでいるときの姿か?」
鈴香被告「…(黙って小さくうなずく)」
検察官「怖いと思った彩香ちゃんの行為はどんなことか?」
鈴香被告「体をねじって私の方に…」
検察官「どっちに?」
鈴香被告「右から左へ」
検察官「体をねじったときの体勢は?」
鈴香被告「よく覚えていない。片手とか両手とか覚えていない」