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(8)「世界に1つ」と曲をプレゼント その名は“ディペンデント”

続いて検察官は、平成18年8月7日の被害者と小室被告との2回目の面会の経緯について記された、被害者の供述調書の読み上げに移った。静まりかえった法廷で、朗読は淡々と続けられていく。

検察官「小室被告と初めて会った後の7月末か8月上旬だったと思いますが、木村被告から電話をもらいました。『10億円のうち先に1億5000万円を払ってくれませんか。前妻による著作権の差し押さえを外すための頭金ということで、確実に前妻に支払いますから』という内容でした」

小室被告は、みけんにしわを寄せた険しい表情のまま。

検察官「その電話の話を私は信じ、『一部を振り込むようにします』とお返事しました。私はこの件について最後まで木村被告に仲介役を務めてほしいと思いましたので『木村被告の会社の口座にお金を振り込みたい』と言いました。木村被告からは『うちの会社の口座に1億5000万円もの振り込みがあれば税務署から疑われるので、チラシの発注があったことにして、その売買代金ということにしてもらえませんか』と提案があり、その方法で振り込むことになりました。チラシの発注というのはもちろん経理上の口実で、実際は著作権譲渡の売買代金の一部です」

1億5000万円という大金の振り込みを、電話1本で依頼してきた木村被告。具体的な振り込み方法についての被害者の言葉を、検察官は淡々と読み進めていく。

検察官「その後、8月2日に木村被告からメールが届き、そこに振込先の口座番号が書かれていました。私は翌日の8月3日午前、妻名義の口座から8000万円、私の会社名義の口座から6000万円を会社の別の口座に振り替え、もともとその口座にあった残額と合わせた1億5000万円を、木村被告から指定のあった口座に振り込み送金する手続きをしました。手続きは午後3時直前だったので、銀行の説明では『送金は明日になります』ということでした」

「しかし、翌日、私は送金される前に送金手続きを停止しました。というのは、私はこれまで、お金を支払う前には必ず書面上で仮契約などを交わすことにしていましたが、この1億5000万円については書面上の合意を交わしていなかったからです。その後、木村被告に電話して『1億5000万円はいったん送金手続きをしたが、停止しました。やはり小室さんとの間で話を書面にした上でお金を振り込むことにしたい』と伝えました」

1億5000万円の振り込みが不調に終わり、小室被告と被害者は8月7日に再び会うことになる。場所は、7月30日の最初の面会の際と同じホテルの部屋だった。

検察官「再会したとき、小室さんからケース入りのCDを渡されました。小室さんは『前回お会いして、あなたが誠実な方だと分かりました。信頼できるあなたのために曲を作ってきました。世界で1曲です。この中に入っています』『(小室被告が作曲し、浜田雅功さんが歌った)“WOW・WAR・TONIGHT”のさびの部分が好きだとおっしゃってたので、その部分を入れています。曲名は“ディペンデント”で依存というような意味ですが、今回、僕の806曲を買い取っていただくことになりましたので、こうした名前にしました』と言いました」

小室被告が言葉巧みに被害者を信用させていく場面を読み上げる検察官。小室被告は沈痛な表情で検察官をじっと見つめるだけだった。

検察官「私が小室さんからCDを受け取るのを横で見ていた木村被告は『世界の小室があなたのために作ってくれたんですよ。すごいじゃないですか』と言いました。小室被告も『僕はあなたみたいな大切な方に曲をお作りしたんですよ』と言ってくれて、私は正直、非常に感動しました」

⇒(9)「10億円は今の僕に100億円の価値」と喜んだ