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(10)契約書案に疑問を抱きつつ、3億5000万振り込む

検察官が読み上げを始めた4通目の被害者の供述調書では、被害者が小室被告のために資金を移動させて木村被告の口座に振り込んだ経緯や、その後、木村被告から合意書面の案がメール送信されてきたことなどが証言されていた。

検察官「平成18年8月7日、木村被告から私にメールが送られてきました。平成18年8月6日までにジャスラックの管理となった806曲の音楽著作権を譲渡することや、この著作権の活用の際には小室被告が最大限の助言を行うことなどが記されていました」

「806曲の著作権そのものが売買の対象となっており、印税を受け取る権利に限定されるものではないということが改めて分かりました。そして8月下旬ごろ、小室被告の印鑑が押された合意書の原本が送られてきました。木村被告からのメールとまったく変わりのない内容だったので、私も署名なつ印しました」

小室被告は正面を向いたまま。まばたきする以外は一切動かない。

検察官「その後、8月下旬ごろ、木村被告から私あてに契約書案のメールが届きました。この中の『本件著作権における契約上の地位』という、これまでに出てきていない表現が引っ掛かりました」

「著作権が、私に二重に譲渡されるものではないかと思ったからです。そこで私は8月下旬、木村被告に対し電話で『“本件著作権における契約上の地位”という言葉の意味が分からないのですが』と尋ねました」

契約内容に疑念を示した被害者。しかし、その疑念は木村被告の巧みな言葉に、あっさりとごまかされる。

検察官「木村被告は『ああ、単なる契約上のひな型か何かの表現でしょう。取り交わした合意書の通りですから。私が保証します』と答えました。私は小室被告ともこうした話を交わしていたので納得し、その後、8月29日ごろ、木村被告の会社の口座に3億5000万円を送金しました」

「『振り込みました』と木村被告に電話すると、木村被告は『小室にそっくりそのまま渡します。そして小室は(著作権の差し押さえを解除するために)前妻へ渡します。何か問題があったら言ってください』と答えました」

検察官の朗読にじっと耳を傾けていた小室被告の視線が、一瞬だけ宙を泳ぐ。合わせて5億円もの大金を振り込むことになった被害者の調書には、次の言葉が続けられていた。

検察官「3億5000万円を振り込む前、私は、大ヒットやミリオンセラーを飛ばした小室被告から、ドル箱ともいえる著作権を譲り受けることができると信じていました」

⇒(11)「告訴する」真相に愕然とした被害者