Free Space

(2)「このころにはヒット曲に恵まれなくなっていた」

罪状認否を終えた小室被告が着席すると、裁判所職員から検察側の冒頭陳述の写しが弁護人に配られた。

検察官「検察官が証拠により立証しようとする事実は以下の通りです」

検察官はまず、小室被告の身上・経歴を明らかにする。そこからは、かつて一世を風靡(ふうび)した売れっ子音楽プロデューサーとしての顔が見て取れる。

検察官「小室被告は東京都に出生し、早稲田大学を中退し、その後プロの音楽家となりました。キーボード奏者だった一方、ほかの歌手らに楽曲提供などをしていました。この間、平成7年からは連続してレコード大賞を受賞。平成8年、9年には2年連続して納税額が十数億円になっていました」

「一方で、被告人はイベント会社トライバルキックスの取締役を務めていました。また、(元歌手の)吉田麻美との間に長女をもうけましたが、平成14年3月に協議離婚し、その後再婚して現在に至っています。被告人には道路交通法違反の前科が一犯あります」

続いて冒頭陳述は、小室被告が犯行に至った経緯に。検察官は事件のカラクリとなった音楽著作権の仕組みについて、日本音楽著作権協会と出版社、著作権者との関係などを読み上げていく。この間、小室被告は硬い表情で前を見据えたまま、時折、弁護人がめくる冒頭陳述の写しに目を落とす以外は、読み上げを続ける検察官を見ているようだ。

検察官「続いて被告人が多額の負債を負うようになった経緯についてです。被告人は平成8年および9年ごろ、著作権による収入は約10億円あったが、不動産や遊興費に費消していました」

この後検察官は、小室被告の借金について列挙していく。小室被告が一気に転落していく様子がうかがえる。

検察官「平成13年1月には、ソニーミュージックエンタテイメントとの専属契約を解約。5月ごろまでに、前受けしていた歌手のプロモーションなどで得られるプロデュース印税などの報酬約18億円を返還したが、不足を補うため平成13年8月、銀行から10億円を借り入れました」

「さらに被告人は、平成14年3月から15年3月までの間に、前妻との離婚に関し、3回に分けて計約3億7000万円の慰謝料を支払うことで合意。また、長女には、平成14年3月から成人になる平成33年までに毎月200万円から390万円の養育費を支払うことを約束しました」

検察官「しかし、平成15年3月に慰謝料の支払いが滞り、16年8月には養育費の支払いも滞るようになり、前妻に対して約7億8000万円の債務を負うようになりました。そして平成17年1月、前妻から、年間約1億円あった被告人の著作権使用料分配金請求債権を差し押さえられました」

検察官が明らかにした小室被告の債務は、平成17年1月ごろで、銀行に対して未返済の約3億円、前妻に対し約7億8000万円、エイベックス・エンタテインメントに約7億円だった。この後検察官は、音楽プロデューサーである小室被告にとってきつい一言を添えた。

検察官「すでにこのころは、被告人はヒット曲に恵まれていなかった。前妻に対する差し押さえによって、収入源は音楽出版社から支払われる年間約1億円の著作印税のみとなっていた」

⇒(3)共犯者と謀議「とりあえず目先のことが大事でしょ」