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(17)詐欺事件の“号砲”となった手紙の中身は…

トライバルキックス社長の供述調書は、平成18年7月中旬ごろ、社長と小室被告、木村被告が話し合った場面に移った。

検察官「小室被告に『芦屋にすごい人がいる。融資は断られてしまったが、10億円できれいな形で買えて、年10億円の使用料収入が得られる』と伝えると、『そんな話があるなら、ぜひ進めてください』と言ってくれました。そこで『まずは小室さんがお願いの姿勢をみせて、相手によい気持ちになってもらうことが先です』と言うと、小室被告は『分かりました』と応じていました」

だが、社長は著作権の譲渡が不可能であることを認識していた。

検察官「そうはいってもだんだんと不安が募ってきました。二重譲渡したりして、800曲余りの著作権を有しているわけではありませんでした。そもそも、10億円で購入することなどできるわけがありません」

だが結局、小室被告らは今回の詐欺事件を実行に移す。その“号砲”になったのが、小室被告が被害者にあてて書いた手紙だ。検察官が読み上げると、傍聴席はかたずをのんだ。

検察官「小室被告の手紙には『2006年は抜本的なスタートをしなければならない大事な年。個人の知的財産を処分し、未来に向けてフレッシュな気分でいきたい。夏から新しいメンバーでやっていきたい』と書かれてありました」

検察官は引き続き、社長と小室被告、木村被告との間で詐欺の共謀が成立した場面を読み上げた。

検察官「平成18年7月下旬、木村被告から『相手は小室から直接話を聞きたいと言ってきている。調整してほしい』と言われました。7月30日に直接会談することが決まり、その直前ごろ、私と木村被告と小室被告の3人で会い、被害者にどのような話をするかを相談しました。木村被告は小室被告に『とても慎重な人です。すでに著作権は譲渡されていると話せば、絶対にお金を出しません。今の苦しい状態を乗り切ることが先決で、譲渡の件は絶対に内証にしておきましょう』と言いました。実際、著作権はない状況でしたが、それを話すとお金を出してもらえなくなるので、その話は一切しないでおこうということになりました」

裁判長も、検察官の朗読に熱心に耳を傾ける。右手で頬づえをつき、鋭い視線を向けながらじっと聞き入り続けた。

検察官「小室被告は『今はとりあえず目先のことが大事です。その辺のこと(著作権譲渡)は言わなくていいでしょう』と言いました。それを聞いて、小室被告はとにかく資金繰りをよくすることだけを考えているんだなと思いました。実際、とにかくなんとか資金を調達しなければ、小室被告はいつ破綻するかわからない状態でした。当然ながら小室被告の破綻は、連帯保証している私の破綻も意味しました」

瀬戸際に立たされた人間の心理が、供述からはかいま見える。しかし、小室被告はしきりとまばたきを繰り返すだけで、表情からは心の動きはうかがえなかった。

検察官「結局、被害者への説明について、小室被告は『とりあえず、前妻の差し押さえ解除のために必要だから、ぐらいにしておこうよ』と言いました」

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