(4)迫真の演技「僕の曲を大切にしてくださる方に…」
被害者にうそをついて信用させ、作品806曲の著作権の譲渡代金として10億円を出させることを了解させた小室被告。冒頭陳述は、小室被告がさらに言葉巧みに被害者を信用させていく様子を詳述していく。
検察官「被告人は平成18年8月10日ごろまでには銀行への返済資金が1億円程度必要だったため、8月7日、東京都内のホテルで被害者と会いました。その際、被告人は被害者のために作曲したCDをプレゼントして、『僕は僕の曲を大切にしてくださる方に、僕が持っている著作権全部をお売りしたいんです』などと信用させた上で、『ジャスラックに登録済みの806曲については全部僕に著作権があります』などとうそを言って、これを信用した被害者から8月中に5億円を支払い、うち1億5000万円を先に振り込むことを了解させました」
こうして被害者は、10億円を支払えば806曲すべての著作権の譲渡を受けられると信じて、8月9日には1億5000万円を、29日には3億5000万円を振り込んだ。これをさっそく銀行への返済などに充てるなどして、全額を使い切った小室被告。しかし、当然のごとく、このままでは済まなかった。
検察官「その後、被告人の作品の著作権の実態や、5億円が被告人の資金繰りに使われたことを知った被害者から、被告人は再三、5億円の返還を求められました。しかし被告人はこれに応じなかったため、被害者は民事訴訟を提起し、結局、平成20年7月には、被告人が同年9月までに慰謝料1億円を加えた計6億円を支払うことで和解したが、被告人は9月30日から10月8日までに3回にわたって計900万円を支払ったのみでした」
検察官による冒頭陳述の読み上げが終了。この間、小室被告は身じろぎもせずに聞いていた。その後、検察側が証拠を請求。弁護側が同意したため、すべて採用されて取り調べられることになった。
裁判長「では、ここで今後の審理の予定を確認しておきましょう」
事前に裁判所と検察、弁護側が協議していた審理予定がここで明らかに。この日の初公判ではこの後、夕方までかけて検察側が採用された書証の要旨を朗読。3月12日に開かれる第2回公判では情状証人の証人尋問を行い、3回公判では被告人質問、4回公判で論告弁論を行って結審する予定だという。
検察官が要旨の告知を始める。配られた手元の書面に目を向けたまま、じっと聞き入る小室被告。まずは被害者の供述調書が読み上げられた。
検察官「私は16年10月ごろ、兵庫県芦屋市内の自宅で、情報通信社の経営者で、知人の木村被告から『小室哲哉をご存じですか』と電話を受けました。私は小室被告がglobeといったユニットや安室奈美恵など多数の歌手を通じ、ミリオンセラーを連発したことは知っていました。またCDなどは持っていませんでしたが、小室被告の独創的な音楽性には惹かれていました」
供述調書は、木村被告が被害者を信用させていく様子に移る。
検察官「しかし、当時は全盛期のような活動はしていなかったので、小室被告の存在が頭から消えていたのが正直な気持ちでした。私は『知っていますよ。でも最近テレビで見かけなくなりましたね』と答えました。木村被告は『私は音楽面や資金面で彼をサポートしています』と言うので、私は大変驚き『すごいですね』と答えました。木村被告は『小室は著作権を担保に入れて譲りたいと思っている。ネームバリューもあるので、融資や売買は億単位になるが興味ありませんか』と持ちかけてきました」