(9)「援助なしなら不倫。奥さんに言うぞ」
検察側の被告人質問が終わり、弁護側による補足の被告人質問が行われた。
弁護人「前回の公判で答えた破産の話だが、破産したときの借金の総額は370万円。そのうち、消費者金融以外の負債は?」
鈴香被告「先生に調べてもらったが、136万円ぐらいだった」
弁護人「債権者は藤里町ということで間違いないか。消費者金融からの借金は差し引き234万円ぐらいということか?」
鈴香被告「はい」
弁護人「借金の督促が会社に来たことはなかった?」
鈴香被告「はい」
弁護人「でも、それは調べたことがなかったというだけで、実際には会社に督促が来たのかどうかは、分からなかったということなのか?」
鈴香被告「はい」
弁護人「会社を辞めるときの離職理由欄には何と書いてもらった?」
鈴香被告「育児のためと書いてもらった」
弁護人「どういういきさつだったのか?」
鈴香被告「一身上の理由で、と書いたのでは通らないと言われたので」
弁護人「育児のためというのは、ウソだったのか?」
鈴香被告「いいえ、彩香が小学校に上がるのに、夜遅い仕事はできなかった」
弁護人「会社の人に説明して、書いてもらったのか?」
鈴香被告「はい」
弁護人「前回の質問で、○○(当時の交際相手)と交際中に、ほかの男性とも肉体関係があったと答えている。何人いたのか?」
鈴香被告「1人」
弁護人「何回あったのか?」
鈴香被告「2回」
弁護人「『お金を渡すからと言われた』と言っていたが、要求したことはあったのか?」
鈴香被告「ない」
弁護人「その男性にメールで『援助なしなら不倫。奥さんに言うぞ』と送っている。なぜそんなメールを送ったのか?」
鈴香被告「あまりにしつこくメールをしてきたので、そう入れればもうメールしてこないと思ったので」
弁護人「男性と縁を切りたかったのか?」
鈴香被告「はい」
弁護人「平成17年に○○(当時の交際相手)と別れたと答えていた」
鈴香被告「はい」
弁護人「『○○と彩香しかストレスのはけ口がなく、○○がいなくなってはけ口が彩香だけになった』と調書にあるが」
鈴香被告「はい」
弁護人「事件当時のはけ口は誰だったのか?」
鈴香被告「○○と、○○さん(友人)、通院仲間や母、弟です」
弁護人「ストレスのはけ口が彩香だけというのは違うのに、どうしてそんな調書があるのか?」
鈴香被告「検事さんの作文だ」
弁護人「どうやってそんな作文が作られたのか?」
鈴香被告「検事さんがしゃべっていることを、事務官の人がパソコンで打つ」
弁護人「平成18年3月にも○○(当時の交際相手)とホテルに泊まっていたという話がある。検事さんはその話を知っていそうか?」
鈴香被告「いいえ」
弁護人「検事から『別れたと言っているけど、3月にホテルに行ったのか』と聞かれたことはあるのか?」
鈴香被告「いいえ」
弁護人「○○と付き合っていたことを、検事が知らなさそうな事情はないか?」
鈴香被告「○○との交際のことが調書にでてきたのが、8月2日以降だった」
弁護人「前回の質問で、あなたは『○○と彩香ちゃんは仲良くなかった、なついていなかった』と供述を変えている。供述を本当に変えるのか?」
鈴香被告「オーバーだったと思う」
弁護人「言葉通りにとられては困るということか?」
鈴香被告「はい」
弁護人「実際は?」
鈴香被告「彩香は○○になついていたし、○○は照れくさそうにしていたので、そういう表現になってしまった」
弁護人「なぜ、供述を変えると言ってしまったのか?」
鈴香被告「検事さんの質問にイライラして、カッとして言ってしまった」
弁護人「友人とのメールのやりとりで、子供が犠牲になる事故をニュースで見て『彩香がそのなかにいれば、と思ってしまった』とあなたは送っている。検事側から『子供が死んだらいいという願望があったのではないか』と聞かれているが、そんな願望は本当にあったのか?」
鈴香被告「いいえ」
弁護人「願望はないけど、あってほしくないことを想像してしまっただけなのか?」
鈴香被告「はい」
弁護人「あってほしくないことを想像することはよくあるのか?」
鈴香被告「はい、○○(当時の交際相手)と仲良かったころも、『もしこの人が事故で死んだら他の男性と人生を歩むのか』と考えてしまったことがある」
弁護人「くどいが、死んでほしかったわけではない?」
鈴香被告「はい」
弁護人「彩香ちゃんは石を集めるのが好きだったが、石集めは彩香ちゃんだけの趣味だったのか?」
鈴香被告「他の子も集めていたことを後から知った」
弁護人「どこで知ったのか?」
鈴香被告「弁護士さんから差し入れてもらった米山さんの本を見て、それで知った」
弁護人「4月9日に警察に示した石も、河原の石ではなかったのか?」
鈴香被告「コンクリートの破片みたいな石だった」
弁護人「捜査段階で、あなたは彩香ちゃんの件で『彩香に抱きつかれるのが怖いと思った』と話した?」
鈴香被告「はい」
弁護人「裁判では『彩香に触れられるのが怖い』と話した?」
鈴香被告「はい」
弁護人「続けて『それ(触れられるのが怖い)だけではないけれど』と述べた?」
鈴香被告「はい」
弁護人「それ以外は今言える?」
鈴香被告「うまく言えるか分からないけど、言えると思う」
弁護人「話してほしい」
鈴香被告「…普段からちょっと触るのが嫌と思ったりしたことのある彩香が、初めて(橋の欄干の上に立ったことで)自分の目線よりも高いところから覆いかぶさってくる形になったので、更に怖いと思った」
弁護人「では別の何か、というより体勢の問題か?」
鈴香被告「はい」
弁護人「ちなみに、それ以前に彩香ちゃんが目線より上から覆いかぶさってきたことはあったか?」
鈴香被告「なかった。(彩香ちゃんが)小さい時に肩車したことはあったがそれ以外はない」
弁護人「前回(公判で)、豪憲君(殺害の)前日、警察が(藤里町内の)ホテルに泊まっているらしいと○○さん(友人)にメールしたと?」
鈴香被告「はい」
弁護人「○○さんに何を伝えたかった?」
鈴香被告「もし(警察が町内にいることが)本当なら、少しでも警察が動いているのかという淡い期待」
弁護人「実際に警察が動いていると思ったのか?」
鈴香被告「思っていない」
弁護人「長くなりそうなのでここで一度、終わります」
12時5分、休憩に入る。鈴香被告は傍聴席の母親を一瞥(いちべつ)し、うつむきかげんに退廷した。