(16)「犯人として元交際相手の名を挙げた」女性警察官証言
次に検察側は、刑事の“問題発言”の確認を始める。「事件より事故の方がいいんじゃないか」という刑事の発言や、警察が無理矢理事故に持っていくため警察犬の頭を押さえて、当初想定していた彩香ちゃんの転落現場へ向かわせた、などの話を、証人の女性警察官は、ことごとく否定していく。
そして話は、彩香ちゃん事件の再捜査を求める鈴香被告の様子へ。証人は、能代署で荒れ狂う鈴香被告の様子をこう表現する。
証人「(鈴香被告は)その場で警察本部に電話し、『能代署と○○刑事(証人のこと)が捜査をしてくれない』と告げ、廊下の壁を蹴っていた」「『警察はサラリーマンで、なにもできない。5時に帰る。シートベルトの取り締まりばっかり。写真を返してくれない泥棒だ。ここにいられるためには、暴れればいいのか、窓ガラス割ればいいか』などと言っていた」
続いて質問は豪憲君事件へ。当初、豪憲君の自宅へ派遣されていた証人は、途中から鈴香被告の自宅へ向かうよう指示が変更されたという。証人は、この時点で県警は鈴香被告に不審の目を向けていたことを明らかにする。
検察官「鈴香被告の家に向かったのは?」
証人「(豪憲君が行方不明になった日の)午後10時前ごろ」
検察官「なぜか?」
証人「鈴香被告が、豪憲君事件の重要参考人になる可能性があり、最初から鈴香被告についていた自分が同行するよう言われた」
検察官「要するに、(鈴香被告が)怪しいということか」
証人「はい」
実際、その夜すでに怪しい行動があったようだ。それまで証人に対し彩香ちゃん事件の捜査を要求するたび、口汚くののしってきた被告は一転、それまでの態度を謝り、機嫌を伺うような仕草を始めたという。
さらに、話は豪憲君に対する死体遺棄容疑で逮捕された6月4日の話に進んだ。同日早朝に自宅から能代署に任意同行され、事情を聴かれる鈴香被告。当初は完全否認だったが、死体遺棄容疑の逮捕令状を請求している最中、急に証人に犯行を打ち明けたという。証人は、そのときの様子を赤裸々に語る。
検察官「午後9時5分から15分までの休憩中に話しかけてきたという話だが?」
証人「私に付き添って欲しいと要望していた。私に身の上話を始めていたが、そのうち豪憲君の話を始めた。『自宅に帰ったら、豪憲君の死体があった。自分が疑われるのが怖くなり、川に捨てた』と話した」
同時に、鈴香被告は、豪憲君殺害の犯人として元交際相手の名前を挙げたという。「被告の言い方が真に迫っている」と考え、すぐに上司に報告した証人だが、まもなくアリバイが判明。その後さらに父親の知人の名前も挙げたものの、こちらも犯人ではないことがすぐに分かったという。そして4日後の6月8日、とうとう豪憲君殺害を認める。
証人「朝の取り調べから『話さなければいけないことがある。夕方、弁護士の先生が来るから、会ってから話す』と言っていた。(取調官の)刑事が『弁護士に言うのは構わないが、弁護士と警察は違うから、できれば話して欲しい』と言ったら話し始めた」
検察官「(調書に)殺害を証言した鈴香被告が手を伸ばしてきたので、証人も手を差し出すと、左手で握りしめてきたとあるが」
証人「覚えている」
被告人質問では、無理やり手をつかまれたと話した鈴香被告。どちらが正しいのか。
朝8時半から夜半まで連続して行われたと鈴香被告が主張する取り調べについても、証人は、「朝はほぼ毎日弁護士が来ていたから調べは9時過ぎから。体調不良の申し立てが多かったので休憩も多かった」と否定する。自白の任意性についても上司から「このような大きな事件は、被告が自白後も否認に転ずることがあり、自白の任意性が争われることもある。気をつけろ」とアドバイスを受けていたという。
検察官「体調管理には気をつけていたと?」
証人「はい。休憩がほしいと言われないときも、私たちが(様子をみて)休ませたりすることもあった」
検察官「休憩を拒絶したことは?」
証人「一切なかった」
検察官「完全に?」
証人「被告が慣れてきて、『休みたい』とか『今日は疲れた』とか言ってきたが、明らかにふざけていたので、説得して続けたことも」
怒鳴ったり、暴言を吐いたなどとする鈴香被告の発言を次々と否定する証人。さらには、こんな事実を告げる。
検察官「(取調官の)『お前(鈴香被告)には弁護士がついているが、彩香ちゃんや豪憲君を弁護できるのは俺たちしかいない』という発言は」
証人「(取調官は)言っていないが、逆に、鈴香被告が言っていたことはある」
ここで、興味を示した藤井裁判長が身を乗り出して質問する。
裁判長「逆に、とは?」
証人「鈴香被告は『自分には、弁護士が付いているけど、彩香たちには弁護士がいない』と」
検察官「『彩香や豪憲君がかわいそうだ』という意味か」
証人「はい。私は、(鈴香被告が)自分を励ますために言っているのだと思っていた」
ここまでくると、果たしてどの発言が本当なのか、さっぱり分からなくなってくる。