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(7)鈴香被告は検察官を怖がっていた?信頼していた?矛盾する言動

検察官「7月18日に逮捕された時は『よく覚えていない』と言ったが、『彩香ちゃんはどうやって落ちたのか怖くて思い出せない』という調書もあるが?」

鈴香被告「(小声で)覚えていない…。たくさん調書を作ったので、よく覚えていない」

検察官「最初に言っていた『思い出したくない』に戻っただけではないのか?」

鈴香被告「…」

検察官「イヤなことは思い出したくないと?」

鈴香被告「…」

鈴香被告の長い沈黙に、検察側は答えを引き出すことをあきらめた。

検察官「7月20日、検事の前で『殺すつもりだった』と認める調書にサインしている。これは怖かったから?」

鈴香被告「そのほかにどういうことを書いている調書ですか?」

検察官「(調書の内容を読み上げる)『彩香ちゃんを殺そうと思いついて川に落とした』『突き落としたと聞いて、腰がひけてしまった』『殺害しようと決意し、という文にとっさにという意味が含まれると聞いて認めた』」

鈴香被告「はい。覚えています」

検察官「『彩香ちゃんを落とした状況について説明します』と思いだして、どういう状況で彩香ちゃんが暴れ出したかなどが書いてあるが、これは事実と違う?」

鈴香被告「はい」

検察官「怖かったから(認めた)?」

鈴香被告「最初、『とっさに』というのはいろんな意味を含んでいるので、その直前やそのときじゃなく、思い浮かんだことに…いろんな範囲の『とっさに』があると説明されたので、それだったらそうなるのかな、と思ってサインした」

ここで藤井俊郎裁判長が、鈴香被告の答えを確かめた。

裁判長「納得してサインしたかということなんですが」

鈴香被告「はい」

検察官「『彩香ちゃんがいなくなってしまえばいいと思った』という次の調書。これは?」

鈴香被告「これは記憶にありません」

検察官「名前(署名)が書いてあるが?」

鈴香被告「出された調書には基本的に…」

検察官「そのこと(サインしたこと)は弁護士には言えなかった?」

鈴香被告「はい」

検察官「怖かったから?」

鈴香被告「はい」

検察官「警察官には、意に沿わない調書の時には(拒否が)言えた?」

鈴香被告「はい」

検察官「警察官と検察官、どこが違うの?」

鈴香被告「検察官の方が怖かった」

検察官「あなたの言い分からすると、腰が痛いのに取り調べたり、刑事の方がよほど怖いはずでしょう?」

鈴香被告「…それを怒ったので、それからは署名に抵抗を覚えて、サインすることはしなくなった」

検察官「それというのは、7月23日の腰が痛いときのこと?」

鈴香被告「はい」

検察官「でも、7月23日以降も、たくさんサインしていますよ?」

弁護人「自白調書にはサインしていないと思いますが」

検察官「ああ、検察調書にはね。でも、警察調書にサインしてるでしょ?」

鈴香被告「どういう調書だったのか?」

検察官「『殺すつもりだった』と認める調書です」

鈴香被告は検察側を時折ちらちらと見ながら、無言を通す。裁判長が検察側に質問する。

裁判長「あと何分くらいかかりますか?」

検察官「もう少しです」

ここで、鈴香被告が振り絞るように答えた。

鈴香被告「どういう調書か覚えていないので、答えられない」

検察官「8月2日の調書から弁護側の抗議が来ているが、8月1日にも同じ内容の検察調書がある。なぜ文句を言わずにサインした?」

鈴香被告「覚えていない」

検察官「これは弁護士には言ってない?」

鈴香被告「8月1日ですか?」

検察官「弁護士は8月2日に言ってきているが、間に何があった?」

鈴香被告「覚えていない」

検察官「取り調べの検事を弁護士より信頼していたとあるが、どういうことか?」

鈴香被告「言葉通りです」

検察官「(検察官が)怖かったんでしょ?」

鈴香被告「怖かったから信頼していたというか…逆らえなかった」

検察官「怖い人を、あなたを守る弁護士より信頼していたという意味がわからない」

鈴香被告「…うまく答えることができません」

挑発するような検察側の質問に悩む鈴香被告に、裁判長が助け船を出した。

裁判長「要するに、あなたを怒鳴りつけ、(遺体の)写真を見せて、意に沿わない調書を作る検察官を信用していたのはなぜか、という質問なのですが」

鈴香被告「信用というより、やはり怖いという気持ちから」

裁判長「あなたの言葉としては、信用より怖かったと言いたいということか」

鈴香被告「…信用もしていた」

裁判長「信用というのはどういう意味?」

鈴香被告「…ええと…母のところに…ちょっと…うまく言えないが、私が思い出してしまったら、私の母も正気じゃいられないんじゃないかということを話して、母のところに行ってもらったことがあった」

裁判長「あなたを気づかってくれて、人間的に悪いようにしないと思ったということか?」

鈴香被告「全部が全部ではないが…」

検察官「高校時代の悪いことを書かないとか、あなたにストレスがあったとかを(調書に)書くことで、殺すつもりで落としたことを認める。バランスが取れていないように思うが」

鈴香被告「あまり意味をきちんと理解しないで調書にサインしていたことが多かったので…」

検察官「8月2日にそういう(殺意を認める)調書をとったことで弁護士から抗議文が来た。そういう調書にサインするなと言われなかったか?」

鈴香被告「言われたと思う」

検察官「それなのに、8月3日以降も、そういうのを認める警察、検察調書に署名しているが、なぜ? また怖かったから?」

鈴香被告「はい」

検察官「8月8日、留置の人に『今日はダダこねないで名前を書いてきた』と言ったらしいが、覚えているか?」

鈴香被告「覚えていない」

検察官「拘留最後の日には、『今日で終わりだと思っていたので、よく読まずにサインした』と言ったらしいね。最終日ならかえって慎重になると思うが、そうはならなかった?」

鈴香被告「はい」

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