(18)「殺意の調書は認めるか?」「ないです」
鑑定人に対する質問が終わり、ふたたび検察側による被告人質問が行われた。
検察官「いま、裁判が始まってから担当した鑑定人の話を聞いた。鑑定人の先生が拘置場に面接に来たとき、無理心中の可能性を言われたというが、どう思ったか?」
鈴香被告「違うんじゃないかと思った」
検察官「あなたは、(彩香ちゃんを)払って落としたことを覚えていると言っていた。鑑定人にも覚えていると話したか?」
鈴香被告「言ったつもりだが、細かいところまで覚えていないとも言った」
検察官「彩香ちゃんをどう支えたか、といった細かいところを覚えていないが、落としたことは覚えているという話をした、ということでいいのか?」
鈴香被告「はい」
検察官「豪憲君を殺した件で、鑑定人が『自信はないけど、彩香ちゃんのところに友達を送り込むつもりだったのでは』と言っているが、どう思ったのか?」
鈴香被告「違うと思った」
検察側の質問に対し、言葉を選ぶように、ゆっくりと話す鈴香被告。以前の被告人質問の際に見せた攻撃的な様子は見せず、うつむき加減で話している。
検察官「彩香ちゃんの事件で、『コンビニで彩香ちゃんにせがまれてピカチュウのおもちゃを買ってあげた』と話していた。彩香ちゃんはピカチュウが好きだったか?」
鈴香被告「はい」
検察官「買ってあげて、喜んでいた?」
鈴香被告「はい」
検察官「どのぐらいの頻度でおもちゃを買ってあげていたのか?」
鈴香被告「スーパーに行ったら、小さなものだったら…」
検察官「出かけるたびに買ってくれと言うのか?」
鈴香被告「言わない」
検察官「まれに言うのか?」
鈴香被告「だいたいは、スーパーに行ったときとかに『1つだけだよー』って言って買ってあげたり。本も立ち読みして買ってあげたり」
検察官「彩香ちゃんは自分からは『買って』とは言わないが、この(ピカチュウの)ときは言ったのか?」
鈴香被告「はい」
改めて、彩香ちゃん事件の当時について問う検察側。
検察官「台所に立ったら、つきまとってきて『マンガ見せて』などと言ってきたんだよね。魚が見たいとも言っていた。これは、だだをこねているように見えたのか?」
鈴香被告「いいえ、言って聞かせれば言うこと聞くだろう、ぐらいには思っていたが」
検察官「ピカチュウを買ってもらって、うれしくて甘えてきたのでは?」
鈴香被告「水を飲みに立ったときだったと思う。服をつかまれてついてきた」
検察官「出かけるときに声をかけて、ピカチュウを買ってくれて彩香ちゃんは喜んで甘えたんではないのか?」
鈴香被告「かもしれない…」
やはり、うつむきながら、一言一言話す鈴香被告。
検察官「魚が見たいっていう話も、甘えていた様子だったんじゃないのか?」
鈴香被告「よく覚えていない」
検察側は、あらためて「殺意はなかった」とする鈴香被告に、心変わりがないかどうか確認する。
検察官「彩香ちゃんについて、捜査段階では自分で背中を押して殺してしまったとする調書に署名していた。それを認める気はないんですか?」
鈴香被告「ないです」
検察官「怖くて、手を払ってしまったというのね?」
鈴香被告「はい」
検察官「豪憲君の事件の前日、当日に、さらえる人がいないか車で回ったという話だった。1日目は何分ぐらい、どこを回っていた?」
鈴香被告「藤里から、二ツ井に帰る間」
検察官「何分ぐらい?」
鈴香被告「あちこち探したわけではないので、通過する感じで10分ぐらい…」
検察官「2日目は?」
鈴香被告「ちょっとよく覚えていないが、ごはんを食べた後に藤里の方へ…。自分では覚えていないけど、見た人がいるという話なので、そうなんだと思う」
検察官「何分ぐらい?」
鈴香被告「短かった」
検察官「じゃあ、5分とかそのぐらいか?」
鈴香被告「はい」
検察官「どちらにしろ、それだけ短いなら近くだよね。どっちも家の近くだった?」
鈴香被告「はい」
検察官「そんなに近くでさらったら、知っている人に会っちゃうんじゃないの?」
鈴香被告「自分でも外に出ないのは知っていたので、(近所の人には)顔は知られていると思っていなかった」
検察官「実際は、誘拐だけじゃなくて、さらって殺そうと思ってたんじゃないのか?」
鈴香被告「そこまでは考えていない」
鈴香被告は、時折声を震わせながらも表情は変えることがなかった。