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(14)彩香ちゃんへの“虐待”「怒りや攻撃性ない」

ずさんとも思える発言を繰り返す西脇巽鑑定人に、検察側はあきれた様子を隠さない。質問は鈴香被告に犯罪を引き起こす攻撃性があったかどうかに移る。

検察官「起訴前鑑定では、鈴香被告の攻撃性は彩香ちゃんの事件で顕在化したという。必ずしも攻撃性が以前に出ていなくても不自然ではないとしている。その考えに反対か?」

鑑定人「怒りや、攻撃性は誰もが持っている。特別に被告が強いという説明が必要だ」

検察官「元夫は鈴香被告から蹴られたり、『バイト先でパン生地に洗剤をまぜる』という話を聞いている」

鑑定人「そういうのは陰険な攻撃性。そういうことしか彼女にはできない。怒り、攻撃性は誰しもが持っているが、必ずしも罪を犯さない。突出した怒り、攻撃性が彼女にあったとは思えない。被告の分裂病(統合失調症)質人格障害は陰。怒りは陽であり、怒りと攻撃性が突出したとは考えにくい」

検察官「一般論として攻撃性が隠れていることはあるのか?」

鑑定人「累犯なら分かりやすいが、初犯でそのような性格傾向があるのか判断するのは難しい」

被告に突出した攻撃性がないとする鑑定人に対して、検察側は近隣住民に目撃されていた鈴香被告の虐待行為を、攻撃性の具体例として挙げ始める。

検察官「怒りや攻撃性についてだが、(被告は)彩香ちゃんの頭を叩いたりしていた。隣家の人がドタンバタンという音や子供の泣き声と、鈴香被告の『起こすな』という声を聞いた。こういったことは攻撃性を示しているのではないか?」

鑑定人「被告人の日常生活は異常性がある。夜中の3時に薬を飲んで寝て、昼の12時に(彩香ちゃんに)起こされ、15時に起き出す。彩香ちゃんが先に起き、お母さんを起こしたときに、『起こすな』というようなことがあり、トラブルになったことはあり得る。攻撃性や怒りではない」

鈴香被告が彩香ちゃんを怒鳴りつけることは、被告の攻撃性ではなく、その生活スタイルに原因があったとする鑑定人。その主張に検察はすぐに異を唱える。

検察官「週1、2回ぐらい泣き声、怒鳴り声が聞こえていた。彩香ちゃんも起こして怒鳴られたら気を使うだろうから、週1、2回も、懲りもせずに起こしていたのだろうか?」

鑑定人「私の常識とは違う生活をしていて、それが常態化していた」

検察官「それは被告人の話でしょう。彩香ちゃんには人格障害があったとは考えづらく、鈴香被告が寝ているところを起こすのには気をつけるのではないか? 被告人に毎週のように怒鳴られても、起こすのか? 納得いかない」

鑑定人「毎回起こすという話ではないかもしれないが、生活リズムが異常な親に正常な子供が(生活を)合わせるのは大変だったはず。私は、その中でトラブルが発生したと推測する」

検察側の意図を理解できないのか、かみあわない回答を繰り返す鑑定人。

鑑定書では、起訴前鑑定を否定した根拠の一つとして、鈴香被告被告が起訴前鑑定の鑑定人に心を開かなかったことが指摘されているが、検察側はこの点についてもかみついた。

検察官「起訴前鑑定の鑑定人について、鈴香被告が検事から『マスコミの報道をたくさん見ている人だ』『週刊誌を読んでいる』と言われ、防衛性を高めたと主張しているが、先生は事実と認定しているか?」

鑑定人「そうです。間違いない事実。弁護側の冒頭陳述に書かれていた」

検察官「その検事は『言っていない』と証言しているが、そのことは知っているか?」

鑑定人「知っている」

検察官「検事がウソをついたということか?」

返答に窮する鑑定人。そこで藤井俊郎裁判長が助け舟を出す。

裁判長「鑑定は、その証言を前提としていなかったということか?」

鑑定人「はい」

弁護側の冒頭陳述を“真実”として作られた鑑定書だったことが、どんどん明らかになっていく。

⇒(15)検事をあ然とさせた鑑定人の言葉は…