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(17)「そんなにすぐに忘れるの?」最後まで厳しい女性裁判官

西脇巽鑑定人に対する検察側の質問が終わり、裁判官の質問に入った。最初に鑑定人に話しかけたのは、左陪審の男性裁判官だった。

裁判官「バカ正直という意味は、ウソがつけない、ウソをつくことに罪悪感を感じるということではなくて、つい本当のことを言ってしまうという意味? 誠実という意味ではない」

鑑定人「そう(誠実という意味)ではない」

裁判官「鑑定人は留置記録などを見て『身柄を拘束されたことで安定したようだ』と指摘しているが、一方で、タバコを飲んだりと自殺を図ったりしている。安定しながら自殺したくなったというのは?」

鑑定人「矛盾している。(その後の発言が聞き取れず)。身柄拘束はよかった。拘束されなければ自分をコントロールできず、健康回復もなかった」

裁判官「身柄拘束で自殺を防ぐ方向に向かった?」

鑑定人「健康を回復する意味ではそうだ。でもうつ病の患者などでは、回復時に自殺をする人もいる」

裁判官「被告の性格の評価について。逮捕前はマスコミなどに対して、強硬な態度も見せていたようだ。これは過緊張で起きたのか?」

鑑定人「緊張で起きたと思う」

裁判官は、「健忘」についての見解をを再度問い始める。

裁判官「自分が健忘症だったという自覚は?」

鑑定人「記憶に空白があったことは自覚していたと思うが、よく分からない」

裁判官「彩香ちゃんを殺したのは『無理心中』と判断しているが、母親の影響で『死ぬなら2人で』と思ったようだと。でも、これは理解しにくい。そういう常識的でない行動を取ったと考えた根拠は?」

鑑定人「母親との関係だ。彩香ちゃん殺害を認めたら、母親が混乱する。自分より母親がどう思うかを考えているから」

続いて右陪審の女性裁判官が質問を始める。これまでも厳しく鋭い質問を行ってきた女性裁判官は、公判のポイントである鈴香被告の殺意の有無を問う。

裁判官「彩香ちゃんの事件の心中の経緯について。母と子が関係する事件の場合は心中が原則と言ったが、心中は殺人だ。(橋からの転落が)事故でないと思われた根拠は?」

鑑定人「弁護士から『事故にしてはあまりにも不自然』と聞いたこともある…。転落しても探すとことをしていない。『忘れているのだから当たり前』と先程指摘されたが、心中の延長だったから探すことをしなかったのではと考えた」

裁判官「鑑定人によると、鈴香被告は彩香ちゃんの転落後、橋で尻もちをついて、その際に全て忘れて『なんで?』となったと。それでも事故だったら探す?」

鑑定人「そう」

女性裁判官の鑑定結果に対する疑念はさらに続く。

裁判官「事故の可能性がないとして、検察側の主張する『ネグレクトの末の殺害』を否定する根拠は?」

鑑定人「怒りや攻撃性を持った結果、『彩香ちゃんがいない方が都合がよい』と思ったとは思えないから」

裁判官「鑑定人によれば、鈴香被告は反省ができないと。だが鑑定人によれば、鈴香被告は彩香ちゃんが大きくなるにつれ、自分がよい母親でないと思い始めたとある。それで反省して死のうとなったのか?」

鑑定人「うーん。具体的に(自分がよい母親か否かを)突きつけられたというより、これから突きつけてくるのではないか。自分はそれに耐えられないのではないかと。それで彩香ちゃんの不幸な未来が待っていると思ったのでは」

鑑定人の矛盾点を次々とつく女性裁判官に、鑑定人の声は徐々に小さくなっていく。そして質問は、殺意の生まれた時期へ。

裁判官「心中とすれば、彩香ちゃんへの殺意はいつ?」

鑑定人「直接的には橋で『帰る、帰らない』のやり取りの最中」

裁判官「川に行く時点ではないのか? 橋に行って『そこから飛び降りれば死ねる』と思ったとき?」

鑑定人「はい」

裁判官「無理心中しようと欄干に乗せ、落とすつもりだったのに、健忘症のショックを受けたのか?」

鑑定人「うーん。予定通り落としたとしても、次は自分。そうなると踏み切れない。こういったケースは少なくないのでは」

裁判長「こういった親が死にきれない場合、親には記憶ないことが多いのか?」

鑑定人「多くはちゃんとある。そして自白する。でも今回の場合は、本人が認めていないから、証明するのは困難」

そして、鈴香被告の「健忘」について、女性裁判官は本質的な疑問を口にする。

裁判官「死にきれない、だからショック? だとすれば、素人考えかもしれないが、尻もちをついた時点で忘れるのは早すぎないか?」

鑑定人「衝撃的で、忘れるまでが短くてもおかしくない」

女性裁判官の質問は終了。最後に藤井裁判長が補足的な問いかけを行う。

裁判長「心中しようとした母親が子供を殺害した後に死にきれない場合、内容を忘れるのはどのくらいの割合か?」

鑑定人「私の経験では1例しか(ない)。そのケースでは殺害した瞬間に『やってしまった』と錯乱した。健忘ではなかった」

裁判長「そうなるのは分かる。今回は違うから特異なケース?」

鑑定人「はい」

裁判長「ノートに、豪憲君のことについてひどいことが書かれていた。理由は『公表されないと思った』『先生(鑑定人)への甘え』となっている。本人もとっさに書いて、申し訳ないと言っているが、置かれている立場が分かっているなら書くはずはない。見方によれば人間性は欠如していると思うが」

鑑定人「そう思う」

裁判長「鑑定人は、鈴香被告が反省の仕方を知らないという。被告が人間性を取り戻すのは可能か?」

鑑定人「不可能とは言えないが、難しいのでは」

午前10時から続いた鑑定人尋問は、午後6時40分、藤井裁判長の質問ですべて終了。7時間を超える尋問を終えた鑑定人は、さっぱりとした表情で引き揚げた。続いて最後の被告人質問が行われる。

⇒(18)「殺意の調書は認めるか?」「ないです」