(16)「検事あわれな人」「裁判どうでもいい」日記に
検事は鈴香被告の供述の一貫性を疑う質問を始めた。被告の返答も、徐々にいらだったような口ぶりになってきた。
検察官「自殺を図ったと言っていたが、睡眠薬は何錠飲んだ?」
鈴香被告「360錠」
検察官「間違いないか? 何で聞く度に飲んでる数が変わるの?」
鈴香被告「…」
検察官「それから留置場でタバコを4本飲んだとかボディーソープを飲んだと言うが、本当か?」
鈴香被告「はい」
検察官「刑務所で腕に傷をつけたり、首を絞めたりしたのも、本当に自殺しようと思ったのか?」
鈴香被告「はい」
検察官「ところが、あなたが(豪憲君の)ご両親にあてた11月の手紙では、あなたは『シャンプーを飲んだ』と書いている」
鈴香被告「ボディーソープです」
検察官「じゃ、シャンプーは何?」
鈴香被告「…」
検察官「いい加減なこと言っているから、こういうとこでボロが出るんだよ」
鈴香被告「いい加減じゃありません!」
検察官「実際と違うことを、ご両親への手紙にどうして書くのか?」
鈴香被告「…」
検察官「答えなくなったが、どうなの?」
鈴香被告「ボディーソープだ」
検察官「なんでシャンプーと書いたの?」
鈴香被告「ボディーソープの誤りだ」
検察官「実際に書いたときの方が、(時間的に)近い。なぜ間違えるんだ。(被害者)家族に書くのに間違い書くのか?」
鈴香被告「…」
鈴香被告が質問に答えない時間がまた始まった。検察側は、イラ立ちを見せ始めた被告を追いつめていく。“軽さ”を突くことで、「極刑になりたい」という言葉が本心ではないことを証明しようとしているようだ。
検察官「あなた、私のことを“あわれな人”と書いたり。あと『私はもう裁判なんてどうでもいいと思っている』と書いてある」
鈴香被告「覚えてません」
検察官「『もう裁判なんてどうでもいい』ってどういうことなの?」
鈴香被告「…」
検察官「『死刑でいい』と言っているが、『今すぐ家族のもとに帰れないなら死刑でいい』と書いている。覚えているでしょ?」
鈴香被告「覚えてません」
検察官「じゃあ見せましょう」(鈴香被告に証拠を提示する)
検察官「あなたは今すぐ家族のもとに帰れるなら、死刑になりたくないの?」
鈴香被告「…人恋しくなって」
検察官「あなたは結局、簡単に『死にたい、死にたい』と言ってるだけでしょ。11月7日に母と弟と(接見で)会ったときも『死にたい、死なせてほしい』と言っている。他にも『となりの部屋の音がうるさい。うがいの音が聞こえると死にたくなる』とも書いている。要するに、あなたの『死にたい』は軽い言葉なんだ」
鈴香被告「十分考えた結果です」
検察官「あなたはこうして話している最中にも、話がコロコロ変わる。さっき10月21日の別のノートに書いたもの、これは鑑定人に見せないと考えたのでしょう?」
鈴香被告「違います」
検察官「弁護側の質問で、ノートに書いたものを(日記に)張ろうか迷ったと言っている」
鈴香被告「迷っていた。矛盾はしない」
検察官「鑑定人に見せない、というのとどう矛盾しないの?」
鈴香被告「ノートが鑑定に持っていかれたので別のノートに書いた。そういう意味で矛盾していない」
検察官「張るかどうか迷ったというのは、鑑定人に見せるか迷ったということじゃないの?」
鈴香被告「趣旨が分かりません」
検察官「なぜ迷った? 何を迷った?」
鈴香被告「人に見せていいか。正しく鑑定してもらうには、見てもらうしかないのでは、と迷った」
検察官「見せなければいいと思ったのではないか?」
裁判長「もういいんじゃないですか、そのあたりで」
うんざりしたような口調で、藤井俊郎裁判長が割って入った。