(14)「私よりも私のこと知っている」鑑定医には“好意"
弁護側の被告人質問が終わり、今度は検察側の質問が始まった。検察官が嫌いな鈴香被告は、目を合わせずに答えている。
検察官「(精神鑑定を行った)西脇巽医師とは何度会った?」
鈴香被告「3、4回」
検察官「西脇鑑定人から、『彩香と一緒に死のうとしたのでは』といわれたのはいつ?」
鈴香被告「覚えていない」
検察官「面接の最初の方、最後の方?」
鈴香被告「最初の方」
検察官「朝から夕方までした最初の方?」
鈴香被告「いや、面接の1回目か、2回目」
検察官「記録では、1回目に言われている。そういうことを言われ、どう思った?」
鈴香被告「思ってなかったことなので、面食らった」
検察官「面食らったのか。何を言っているんだろうと思ったでしょ?」
鈴香被告「はい」
検察官「ところが1回目終わった後の日記には、『西脇さんは、私より私のことを知っているのでびっくりした』と書いてあるが?」
鈴香被告「別にその部分についてだけじゃなく、『こうじゃないか』といわれて『そうですね』とか答える傾向があるといわれて、そう思った」
検察官「『検察官に言われたことは違うのでは』とか、そういう話になったのでは?」
鈴香被告「覚えていない」
検察官「少なくともあなたは、鑑定人に好意を持っているように感じる」
鈴香被告「はい」
検察官「好意を持ったわけですね?」
鈴香被告「はい」
検察側の質問内容は、鈴香被告の今年10月21日付の日記に移った。矛盾を厳しく追及され、鈴香被告は徐々に言葉少なになっていく。
検察官「弁護人からも聞かれていたが、10月21日のところで、すごいことを書いているよね? 『豪憲君に申し訳ない気持ちはあるが、彩香に比べ、悪いことをした罪悪感はほとんどない』と」
鈴香被告「申し訳ありません」
検察官「両親に対しても、『何でほかに2人も子供がいて、怒っているか分からない』と書いたんでしょ」
鈴香被告「申し訳ございません」
検察官「衝動的だったとあなたは言うが、そう思ったから書いたのでしょう?」
鈴香被告「申し訳ありません」
検察官「まだ2人も子供がいるじゃないかと。じゃあ、あなたに2人子供いたら、彩香ちゃんが死んでも構わないのか?」
鈴香被告「後から読み返してみると、なんてひどいことを書いたんだろうと。彩香はたった1人しかいない。豪憲君もたった1人しかいない。申し訳ありませんでした」
検察官「ほかにもこうしたことを言ったり、書いたりしたことはない?」
鈴香被告「いいえ、ないです」
検察官「あなたは豪憲君のことについても、自分はやってないということを言っていたことがああるよね」
鈴香被告「…はい」
検察官「そういったときに、書いた手紙について、(被告人質問では)私たちにきちんと答えようとしなかったけど、そのとき書いたりしたよね。弁護士さんから、『こんなこと書いたら極刑になるぞ』といわれたんでしょ。だからやめたんでしょ?」
鈴香被告「人に会えなかったりして、正常じゃない状態になって、泣き叫んだり、意味の分からないことを言ったり…」
検察官「そういうなかで、看守や弁護士にそう言ったことがある?」
弁護人「趣旨を明確に。そういうこととはどういうことですか」
検察官「両親に対して罪悪感があまりない、とか」
鈴香被告「違います」
検察官「じゃあ、どういうことを言ったの?
鈴香被告「言いたくない」
検察官「言いたくないとは、法廷でそうしたことを言ったら、(豪憲君の)お父さん、お母さんが傷つくことを言ったということではないのか?」
鈴香被告「…」
検察官「まただんまりですか。ご両親は、あなたの口から、どうして豪憲君を殺したのか聞きたい、と言っていたのを聞いていましたよね?」
鈴香被告「…」
検察官「(ご両親が)『(鈴香被告は)都合が悪いことになるとだんまりする』と言っていたの、聞いていたよね」
鈴香被告「そう受け取られてもしょうがありません」
検察官「いまもそうじゃないですか。泣き叫んだとき、看守や弁護士にどういうこと言ったのか?」
鈴香被告「…」
検察官「それとも次のときまでに弁護士さんと相談して決めますか? 申し訳ない、じゃ分からない。どうしてこんなことを書いたのか? こうした気持ちだったからじゃないのか?」
鈴香被告は手足を震わせながら、約20秒間押し黙ったままだった。これまで矢継ぎ早に質問を繰り返した検察官も、このときは鈴香被告の言葉を待ち続けた。