(1)目もくれず…鈴香被告を“完ムシ”
秋田連続児童殺害事件で、殺人と死体遺棄の罪に問われた無職、畠山鈴香被告(34)の第11回公判が12日午前10時半、秋田地裁(藤井俊郎裁判長)で始まった。この日最初に予定されているのは、鈴香被告に殺害された米山豪憲君=当時(7)=の両親に対する検察側の証人尋問だ。
両親は、普段は開廷直前に傍聴席へ入り、母、真智子さんが豪憲君の遺影を胸に掲げるが、今日は2人の代わりに初老の男性が遺影を持って傍聴席に座った。豪憲君の祖父だろうか。
開廷直前、被害者遺族に対する配慮なのか、裁判所の事務官が、証言台を鈴香被告の座る席から離すようにずらした。
3人の裁判官が入廷後、最初に証人として証言台に立ったのは、父、勝弘さん。濃紺に白いラインが入ったスーツを着た証人は、法廷に入り一礼し、1回唇をかみしめた。メガネの奥の目は緊張しているように見える。
まもなく、鈴香被告が入廷してきた。黒のジャケットに白いシャツ、黒パンツ、ピンクのサンダル姿。法廷に入るといつもより深めに一礼し、さらに席に着く前にも、勝弘さんに対して頭を下げた。しかし、勝弘さんは正面を見据え、鈴香被告の方を向こうとはしない。被告は宣誓のため立ち上がった勝弘さんを、ずっと見つめていた。
検察官が立ち上がり、質問を始めた。最初に、家族構成などを確認した。「あなたは被告人に殺害された豪憲君の父親ですね」と尋ねる検察側に対し「はい」と小さい声で答える。さらに、身上を尋ねた後、豪憲君の思い出についての質問が始まった。
検察官「豪憲君はどのような子供だった?」
証人「活発で、というか、とても元気な、明るくて、誰からも愛される子供だった」
証人が豪憲君について語り出すと、鈴香被告は目をつぶった。
検察官「スポーツが好きだったようだが」
証人「親子マラソン大会があって、(幼稚園の)年中組のとき2位に入ったが、(豪憲君が)『お父さんが遅いから1位になれなかった』と悔しがった。年長組のときには(大会の)2カ月前から2キロほどの距離を励まし合いながら練習し、その年は1等賞になって喜んでいたのを覚えている」
検察官「豪憲君から練習しようと言ったのか?」
証人「はい」
検察官「(豪憲君の)お兄ちゃんも一緒に練習したのか?」
証人「長男も、自分の出る競技もあったし、豪憲が小さいので、サポート役としてつきあってくれた」
証人は、仲良くマラソンの練習をする2人の兄弟を思いだすように、小さな声で、一言一言絞り出すように話し続ける。