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(12)「日記、勢いで書いた」

米山豪憲君の両親への証人尋問が終わると、刑務官に促され、鈴香被告が静かに立ち上がった。

11月の第9回公判以来となる被告人質問。涙ながらに極刑を望んだ豪憲君の両親の訴えは、鈴香被告の心にどう響いたのか。法廷が静まり返る中、弁護人はゆっくりと口を開き、被告が鑑定人に提出した日記を読み上げた。

弁護人「書き出しは『イライラする。泣きたいのに泣けない』。そして最後は、『十分頑張って生きた。もういいだろう』。この時、あなたはどういう精神状態だったのか?」

鈴香被告「いろいろな人の証言や、人に会えない、会っても話ができない、そういう感情を(日記に)ぶつけてしまいました」

泣いているのか、鼻をすすりながら、小さな声でぼそぼそと鈴香被告は答えた。対して、弁護人は教え諭すように強い口調で続ける。

弁護人「ぶつける相手が違いますよ!」

鈴香被告「…はい」

弁護人「どういう証言についてそう思ったのか?」

鈴香被告「やっぱり、彩香をかわいがっていなかった、冬に(家の)外に出していた、そういうことを言われ、『そんなのは違う』と思ったこと」

弁護人「あなたの(元)恋人も証言した」

鈴香被告「ショックでした」

弁護人「どういうところが?」

鈴香被告「証言されたことだけでなく、いろんなこともあったはず。なのに、悪いことだけ話されたこと」

言い訳のような言葉を続ける鈴香被告。傍聴席の米山さん夫妻を意識してか、弁護人の口調がさらに強まる。

弁護人「それにしても、『豪憲君のことは反省するが、(殺害した)罪悪感は彩香に比べて薄い』というのはどういうこと?」

鈴香被告「豪憲君にも申し訳ないという思いはずっと持っていたが、彩香に対しての方がどうしても強くて…。申し訳ありません…」

鈴香被告は、消え入りそうなほど小さな声で謝罪した。

弁護人「米山さん夫妻について、どうしてこういう書き方になったのか?『イライラする』とか…」

鈴香被告「自分と人生を比較してしまって。大変申し訳ないことを書いたと反省している」

弁護人「あなたの本心なのか?」

鈴香被告「いいえ。勢いで書いてしまった」

弁護人「あなた、死刑になりたいから書いたんじゃないのか?」

鈴香被告「それも…あります」

弁護人「『罪悪感が薄い』という言葉はいつ浮かんできたの?」

鈴香被告「そのときです」

弁護人「別の日記では、(自分が書いた日記について)『その時々の感情で書いているから、他人の言葉のように思える』とあるが、そうなのか?」

鈴香被告「はい。ほとんど考えなくて、そのときの感情のまま書いてました」

弁護人「次の日の日記には、『豪憲君の写真に花を飾った』とある。この時は、前日(日記に)ひどいことを書いたことについて、どう思っていたのか?」

鈴香被告「もう書いた時点で消化されたというか…」

鈴香被告が日記に吐露した感情は、遺族にとっては暴言に等しい。弁護側は必死に、「その場限りの感情」であり「勢いで書いた」ものであることを強調した。

⇒(13)「わ、わたしはどうしたら…」