(18)理想は「尽くす女性」 好みのタイプを芸能人にたとえるなら「ない」
1人暮らしで週末のOLをねらえば、週明けまでだれにも気づかれることなく自分の思い通りに女性を乱暴し続けることができると考えていた星島貴徳被告。だが、だれも来ないと信じていた東城瑠理香さんの室内で、すぐに指紋をふき取るなどの工作をしていた。検察官は、この「矛盾」の追及を続ける。
検察官「なぜ、(東城さんが事件直前に買い物をした)お菓子などを持ち去ったのですか?」
星島被告「あやしまれる思ったから」
検察官「(週明けの)月曜日まで発覚しないという想定でしたよね」
星島被告「訳が分からなくなってしまっていただけだと思います。痕跡を残さないような行動を起こすのはおかしいですね。やはり動転していたのでしょう」
検察官「(マンションの廊下に)落ちていた血の跡はどうしましたか?」
星島被告「ふき取りました。(瑠理香さんの住む)916号室にいずれ戻すつもりだったので、きれいにしておこうと考えたと思います」
面識のほとんどない女性を1週間前にねらおうと決め、失敗も考えなかったという星島被告。行き当たりばったりの犯行で、どこか他人事のようなあいまいな答えが続く。
検察官「部屋に心配した友人らが来るとは思わなかったのですか?」
星島被告「そこまで考えていませんでした」
検察官「(東城さんを帰宅直後に襲った際に)脱がせた白いブーツはどうしましたか?」
星島被告「位置を変えたような気がします」
検察官「1回目(東城さん方の)室内に入った際に具体的にどうしたのですか?」
星島被告「玄関脇に置きました」
検察官「2回目はどうしましたか?」
星島被告「きれいに脱いだように、位置をそろえたと思います」
『記憶が動転していた』としながらも、星島被告は着実に証拠隠滅工作を図っていたことになる。
検察官「(東城さん方の)玄関ドアはどうしましたか?」
星島被告「きれいにふいたと思います」
検察官「最後にふいたのはどこですか?」
星島被告「玄関のドアノブでした」
星島被告は、待ち伏せ場所や連れ去り、室内での乱暴の計画を頭の中で考えていた。計画と実際の犯行に違いはあったのか。
検察官「思い通りに犯行は進んだんですか?」
星島被告「違いました」
検察官「違った点に具体的に尋ねていきます。被告人は女性と交際した経験はありますか?」
星島被告「ありません」
検察官「どんなことをしたいと思っていましたか?」
星島被告「デートや買い物をしたり、普通の交際をしたいと思っていました。もちろん性行為も考えていました」
星島被告の描く交際したい理想の女性像はあったのだろうか。検察官の追及はそこまで及ぶ。星島被告は、じっと考え込む場面が多くなり、困惑の表情を浮かべる。
検察官「どんな女性が良かったのですか?」
星島被告「私をずっと好きでいてくれる人です」
検察官「どうしてそう思うのですか?」
星島被告「…。理由は分かりません」
検察官「好きでいてくれると、何をしてくれると思ったのですか?」
星島被告「一緒にいてくれると思っていました」
検察官「一緒にいて、どうしてくれると思ったのですか?」
星島被告「…。すみません。ちゃんとした答えが見つかりません」
それでも検察官の追及は続く。検察官は自分の都合のよい方向にしか考えない星島被告の姿勢を強調したいようだが、意図が明確に分からず、星島被告も少しいらだつように大きな声で答えていく。
検察官「けんかばかりしていても構わないのですか?」
星島被告「好きでいてくれるなら、それでも構いません」
検察官「あなたに尽くしてくれる人を期待していたということですね」
星島被告「そうだと思います」
検察官「あなたのことを裏切らない女性を期待していたのですね」
星島被告「そうだと思います」
検察官「仮に、あなたにどんなことをされても思い通りになる女性を求めていたのですね」
星島被告は「(ひと際大きな声で)そうです」星島被告は、どのように女性と接してきたのか。
検察官「そういう女性に会ったことはありますか?」
星島被告「ありません」
検察官「そういう女性はどういうところにいると考えていましたか?」
星島被告「私の考えでは思いつきません」
検察官「作品で見たことはありますか?」
星島被告「ないと思います」
検察官「頭の中での理想ということですか」
星島被告「はい」
星島被告は34歳。これまで多くの女性と出会うきっかけがありながら、現実の女性に目を向けてこなかったのか。検察官は核心の追及に入る。
検察官「現実の女性と交際するために、何か行動したことはありますか?」
星島被告「していませんし、無駄だと思います」
検察官「普通の男性なら、どうすると思いますか?」
星島被告「身なりをきちんとし、優しく接し、将来設計をきちんとする。そうしたら告白して交際が始まる」
検察官「あなたは現実の女性に声をかけたことはありますか?」
星島被告「ありません」
検察官「なぜ最初からあきらめていたのですか?」
星島被告「私の両足には(幼いころの火事で負った)やけどの跡があります。それが原因です。もし『きもち悪い』とか『きもい』といわれれば、殺してしまうかもしれません」
星島被告は身体的なコンプレックスを過度に抱き続けていたという。これが事件に影響を与えたのか。
検察官「世の中すべての人間が(やけどを)気にすると思っていたのですか?」
星島被告「ばかにされると思っていました。私もばかにしていましたし」
検察官「だから女性に声をかけても無駄だと思ったのですか?」
星島被告「はい」
検察官「現実の女性のどこが嫌だったのですか?」
星島被告「嫌だとは思っていません。恐れていたのだと思います」
検察官「傷つけられるのを恐れていたのですね」
星島被告「はい」
検察官「体形的な好みはありますか」
星島被告「こだわりはありません」
検察官「芸能人に例えるとどんな人が好みですか」
星島被告「(検察官の質問が終わる前に、きっぱりと)ない。全くない」
女性からの一方的な愛情ばかりを理想に求めながら、東城さんを躊躇(ちゅうちょ)なく殺害してバラバラにした星島被告。法廷でも自分勝手な理想論を展開した。