(15)「外に出すからおとなしくしろ」…緊縛、目隠しの被害者に包丁突き付け
約20分間の休憩を挟み、星島貴徳被告に対する検察側の被告人質問が再開した。星島被告が東城瑠理香さんを拉致しようとした場面からだ。再入廷した星島被告は相変わらず無表情。両手をだらりと下げ、力なく証言台に座る。猫背で生気がまったく感じられない。「被告人はできる限り大きな声を出してください」という平出喜一裁判長の呼びかけにも微動だにせず、無言のままだ。
法廷の両壁に設置された大型テレビの画面には、星島被告が東城さんを部屋から連れ出す際に、ピンク色のジャージーを顔に巻いて目隠しをした様子の絵が映し出された。絵の上の部分には「私が916号室の女性の頭にピンクのジャージーズボンをまいたこと」というタイトルが。絵も星島被告が描いたものとみられる。いずれも細い線が印象的だ。
検察官「なぜ目隠しをしたのですか?」
星島被告「次の行動を悟られないためです」
検察官「誰の?」
星島被告「私の」
検察官「悟られるとどうなると思ったのですか」
星島被告「逃げられると思いました」
検察官「目隠しをした後はどうしたのですか」
星島被告「私の部屋に連れ去ろうと、玄関に向かって歩かせました」
大型テレビには両手を腰の部分で後ろ手に縛られ、頭が床に付くほど前屈姿勢を取らされた女性を後ろから押すような男の姿が映し出される。警察の実況見分の写真だ。
検察官「この写真のように歩かせたのですね」
星島被告「はい」
検察官「部屋を出るとき、包丁は持っていましたか」
星島被告「はい、手にしていました」
検察官「廊下は歩きやすかったですか」
星島被告「歩きづらかったです。玄関に靴とかたくさんあって…(聞き取れず)」
検察官「玄関でバランスを取るために、あなたはどこかに触りましたか」
星島被告「おそらく触ったと思います」
この時、玄関の壁に残された指紋が、事件の犯人が星島被告だと裏付ける“決定打”となった。
検察官「あなたは玄関で何か見つけましたか?」
星島被告「黒いバッグ…」
検察官「それをどうしましたか?」
星島被告「相手の素性を知るために、バッグを拾いました」
検察官「なぜ、相手の素性を知りたかったのですか?」
星島被告「名前も年齢も職業も分からなかったから…。まったく知らないより、知る必要がありました」
検察官「あなたは強姦するために、東城さんを連れ去ったんですよね」
星島被告「はい」
検察官「強姦する前に(相手を)知りたいという興味があったのですか?」
星島被告「興味というより、少し理論的に考えていたと思います。知っていた方が有利に働くと思いました」
検察官「どんな局面で有利に働くと思ったのですか。脅迫するときに有利に働くと思ったのではないですか?」
星島被告「はい」
検察官「お金を取る目的は」
星島被告「いいえ」
検察官「性奴隷にする目的だけ」
星島被告「はい」
小さな声でボソボソと答える星島被告。検察官はたたみかけるように、東城さんを拉致する状況について、質問を続ける。
検察官「連れ去るとき、東城さんは何かしゃべりましたか?」
星島被告「いいえ」
検察官「叫び声以外は何も」
星島被告「はい」
検察官「東城さんの息は普通でしたか」
星島被告「きちんと聞いているわけではありませんが、おそらく息が上がっていたと思います…。ふるえていたかもしれません」
検察官「部屋の外に連れ出すとき、(東城さんは)抵抗しましたか?」
星島被告「いいえ」
東城さんは、星島被告に無抵抗だった。にもかかわらず、星島被告は東城さんを包丁で脅している。
検察官「あなたは玄関を出る前に、東城さんに何か言っていますね?」
星島被告「首かほっぺたのあたりに包丁をあてて、『これから外に出すからおとなしくしろ』といいました」
検察官「おとなしくしていたけど、念のために脅したのですね」
星島被告「はい。最初の抵抗が怖かった…」
検察官「外に出るとき、外に誰かいるか確認しましたか?」
星島被告「はい」
男が玄関を少し開け、外の様子をうかがっている警察の実況見分の写真が大型テレビに映し出された。星島被告が座っている証言台に置かれたパソコンの画面にも同じ写真が映っている。星島被告は力なく画面を見ながら答えていく。
検察官「ドアを開けたときの東城さんの様子は」
星島被告「つまずいたのかどうか分からないけれども、前のめりに倒れて、床に頭を打ち付けていました」
検察官「声は?」
星島被告「聞こえません」
検察官「その後、どうしたのですか?」
星島被告「引っ張り上げて起こしてあげました」
検察官「東城さんは何かしゃべりましたか?」
星島被告「いいえ」
検察官「もし、東城さんが声を出していたら、どうしましたか?」
答えたくないのか、当時を思いだそうとしているのか、長い沈黙。
星島被告「口を塞ぐか、もう一度、916号室に戻していたかもしれません」
検察官「それでも声を出し続けたら、どうしようと思ったのですか?」
星島被告「恫喝(どうかつ)するか、殴るかしたかもしれません」
東城さんは、両腕を後ろ手に縛られ、目隠しをされ、前屈姿勢のまま、星島被告被告の部屋に連れ込まれた。