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(12)ドアに飛びつき開けた瞬間「トウジョウ・ルリカが立っていた」

男性検察官は、事件当日までの行動について星島貴徳被告に細かく尋ねていく。証言台の星島被告は、少し前のめりのような姿勢で、机の上に視線を落としている。

検察官「あなたは『脅して手を縛れば、女性は抵抗しなくなる。(星島被告が入居していた)918号室に監禁し、強姦すれは、女性は自分の言うことを聞くようになる』と思っていたのですか」

星島被告「はい」

検察官「(東城瑠理香さんが住んでいた)916号室の女性は、何時ぐらいに帰ってくると思っていましたか」

星島被告「しっかり調べたわけではないですが、(午後)8時か9時には…」

検察官「電気メーターはいつから見ていましたか」

星島被告「普段から見ていました」

星島被告は、普段から東城さん宅の電気メーターをチェックし、その動き方で帰宅したかどうかを調べていたという。

検察官「あなたは(星島被告宅の)玄関内で待っていて、どの瞬間で押し入ろうと思っていたのですか」

星島被告「女性が帰ってきて玄関を開け、玄関に上がる瞬間、あるいは上がる前に…」

検察官の質問には淡々と答えるが、その声は消え入りそうだ。

検察官「(玄関の)鍵を開ける瞬間は、どうやって分かると考えていたのですか」

星島被告「鍵を開ける音…(聞き取れず)。(マンションの近くを)電車が通ったら聞こえませんが…」

検察官「電車が通ったら、どうするつもりだったのですか」

星島被告「あきらめるか…。まだくすぶったものがあれば、来週に持ち越すか…」

弁護側は冒頭陳述で、「犯行に計画性はない」と主張しているが、検察側は星島被告の計画性があったことを強調するねらいのようだ。

検察官「当時、(星島被告や東城さんが住んでいた)9階に他の人は住んでおらず、鍵の音がすれば916号室だと分かると思ったのですね」

星島被告「はい」

検察官「この日、あなたは何時ごろ帰ってきましたか」

星島被告「(午後)6時には帰っていました」

検察官「女性の待ち伏せはしましたか」

星島被告「はい」

検察官「何時ごろからですか」

星島被告「(午後)6時20分から30分(間)くらい…」

検察官「場所は918号室の玄関内ですか」

星島被告「はい」

検察官「どういう格好でしたか」

星島被告「黒いタートルネックでした」

検察官「靴ははいていましたか」

星島被告「いいえ」

検察官「なぜですか」

星島被告「(東城さん宅の)玄関に入るとき、靴の跡を残してはまずいと…」

検察官「タオルや凶器は用意しましたか?」

星島被告「いいえ」

検察官「なぜですか?」

星島被告「考えていませんでした」

検察官「あなたは、『女性を縛り上げてしまえば反抗しない。凶器やタオルがなくても、犯行が可能だ』と思ったからではないですか?」

星島被告「そうだと思います」

凶器とされている包丁や東城さんを縛り上げたタオルは、いずれも東城さん宅にあったものだ。

検察官「どのような姿勢で待ち伏せをしていたのですか」

星島被告「いわゆるバイク座りのような格好をしていたと思います」

ここで、法定内の大型テレビに写真が映し出された。逮捕後に、星島被告がマンションの空き部屋で犯行前後の様子を再現した際の写真だ。星島被告が玄関の上がりかまちに腰を下ろしている。これが“バイク座り”のようだ。

検察官「玄関のストッパーはどうしていましたか」

星島被告「少し開けておきました」

検察官「それは何のためですか?」

星島被告「916号室の鍵を開ける音を聞くためです」

検察官「916号室の女性が帰ってくるまでの間、どこか別の場所へは行きましたか」

星島被告「郵便受けの確認に行きました」

検察官「なぜですか」

星島被告「最初に帰ったときに、郵便受けの確認をしていなかったので…」

検察官「このとき、916号室の電気メーターは確認しましたか?」

星島被告「はい」

検察官「女性は帰ってきていましたか?」

星島被告「いいえ」

検察官「郵便受けの確認に行ったとき、誰かとすれ違いませんでしたか」

星島被告「他の階の若い女性とすれ違いました?」

検察官「その後はどうしましたか」

星島被告「すれ違った女性が6階で降りたので気になり、6階で降りて(どの部屋か)確認しようとしましたが、通路には誰もいませんでした」

星島被告は、女性が乗ったエレベータの停止階表示を確認。もう一つのエレベータを使い、後を追うようにして6階まで上がったという。

検察官「チャンスがあれば、性奴隷にするのは、その女性でも良かったと考えていたのですか?」

星島被告「…6階の人を9階に連れて行くのは、技術的に難しいですから」

検察官「その後はどうしましたか?」

星島被告「9階に戻りました」

検察官「916号室の女性は、何時ごろに帰ってきましたか?」

星島被告「(午後)7時半ごろです」

検察官「どうして分かったのですか?」

星島被告「ガチャガチャと鍵を開ける音がしました。『いつもと同じ音だ』と」

検察官「あなたは、まずどうしましたか?」

星島被告「ドアを開け、女性が玄関の中に入る音を聞きながら、飛びかかるタイミングを考えていました」

大型テレビに再び、再現写真が表示された。星島被告がドアにぴったりと張り付き、隣人の物音に耳を澄ましている。何とも異様な光景だ。

検察官「飛び出すタイミングは、早すぎても遅すぎても良くないと考えていたのですね」

星島被告「はい」

検察官「早すぎるとどうなると考えていたのですか?」

星島被告「鉢合わせる危険が高くなると…」

さらに、テレビ表示が変わった。自室のドアを開けて、通路に飛び出す星島被告の再現写真だ。

検察官「あなたが916号室へ向かった際、916号室のドアはどうなっていましたか?」

星島被告「閉まりかかっていました」

検察官「通路に人は?」

星島被告「いませんでした」

検察官「あなたがドアに飛びつくと、中には誰がいましたか」

星島被告「東城瑠理香が私に向かって、後ろに立っていました」

星島被告の口から出た呼び捨ての「トウジョウルリカ」というフルネームは、無機質な印象で法廷に響いた。

検察官「あなたはいつ、その名前を知ったのですか」

星島被告「殺害して、遺品を…。刻んでいるときです。住民票があって…。その後、覚えていてはいけない名前だと…。思って…」

星島被告は記憶をたどるように、言葉を句切りながら答えた。この後、証言はいよいよ犯行の場面に及ぶ。

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