第3回公判(2010.9.7)
(7)「アッコのことよろしく」 出頭前、元妻の矢田亜希子さん気遣う
保護責任者遺棄致死などの罪に問われた元俳優、押尾学被告(32)に合成麻薬MDMAを渡したとして、麻薬取締法違反罪で懲役1年の実刑判決が確定した押尾被告の友人、泉田勇介受刑者(32)に対する検察側の証人尋問が続く。飲食店従業員、田中香織さん=当時(30)=がMDMAを飲んで容体が急変し、その後、別の部屋に移動した際の経緯などを男性検察官が質問していく。
検察官は、証言台の前に座る泉田受刑者の右横すぐ近くに立ち、ときおり詳細を聞き返しながら質問していく。泉田受刑者は小さな声ながらはっきりと答えていった。
検察官「◯◯さん(法廷では実名)が119番通報した後、あなたは救急隊に居合わせましたか」
証人「居合わせていません。押尾が上の部屋(に行く)と言ったので…」
◯◯さんとは、押尾被告の友人で、年配で仲間内では先輩格だったとされ、田中さんが倒れて、右往左往している押尾被告らを一喝し、すぐに119番通報したとされる人物だ。
検察官「上の部屋にはどういう方法で行きましたか」
証人「押尾が先に出て、私と(元チーフマネジャー)□□(法廷では実名)が続いて非常階段をついて行きました」
検察官「エレベーターを使わなかったのは?」
証人「なぜ非常階段なのかは本人に言ったと思いますが、『筋トレだ』とかよく分からない理由を言っていました。とにかく焦っているような感じで、23階を一刻も早く離れたいという感じでした」
六本木ヒルズの23階で、田中さんは容体が急変した。
検察官「23階から42階というとかなりの運動量ですが、ずっと休まずに?」
証人「途中、□□が後をついてこないのに気づいて押尾に言ったところ、押尾が電話をしたか、□□が電話をしたか忘れましたが、その途中、押尾からプラスチックのボトルを渡されました」
押尾被告と田中さんが摂取したMDMAが入っていたとされる、プラスチックボトルの形状について検察官がくわしく質問していく。
検察官「渡されたボトルの形は?」
証人「プラスチック製の白いボトルだったように思います」
検察官「何かの商品にたとえると?」
証人「大量に入っているガムの容器に近いものだと思います」
検察官「中身は何だと思いましたか」
証人「使った薬物の残りが入っているのだと思いました」
検察官「被告は薬物と表現しましたか」
証人「『これなんだよね』と言いました」
検察官「『これなんだよね』と言われてどう思いましたか」
証人「MDMAの残りだと思い、受け取りました。処分してほしいということだと思いました」
ここで検察官は、MDMA入りのボトルを渡された経緯とその理由について、再度証人に問いただす。押尾被告は、弁護人の方に耳打ちしたり、メモを取ったりしている。
検察官「大事なことなのでもう一回聞きます。23階から42階に向かう非常階段でプラスチックボトルを受け取りましたね?」
証人「はい」
検察官「押尾被告から『これなんだよね』と言われましたね?」
証人「はい」
検察官「『薬物が入っているから処分してくれ』と哀願されているとあなたは思ったんですね?」
証人「はい」
検察官「42階に入ってからのことを聞きます。部屋のどこでプラスチックボトルを開けましたか」
証人「(42階の知人の)部屋のトイレです」
検察官「わざわざトイレで?」
証人「これは私の推測ですが、△△と□□の前では知られたくなかったのかもしれないので、□□がベランダに出ているすきに、トイレにボトルから出した薬物を持っていきました」
△△氏は押尾被告の元マネジャーで、押尾被告から、罪を着せられようとしたとされる。
検察官は、トイレで泉田受刑者が見た薬物の形態について改めて確かめた。
検察官「トイレで見たのはどんな薬物だったか覚えていますか。何をまず見ましたか」
証人「パケ(袋)の中に、真っ白いカプセルと、透明なカプセルに私が譲り渡したMDMAをすりつぶしたようなものが入ったもの、それが6個ありました。それともう一つパケがありました」
検察官「話を整理します。パケが2つあり、1つのパケにはMDMAの粉末が入っているように見えたんですね? もう一つのパケにはカプセルが6つぐらい入っていたんですね?」
証人「はい」
検察官「割合は?」
証人「半々だったと。透明なのが3つぐらいか、白っぽいのが3つぐらいだったと思います」
検察官「透明なのは、当日あなたが買ったもので中身は(昨年)7月31日に渡したMDMAをすりつぶしたものに見えたんですね?」
証人「はい」
検察官「パケの大きさはタバコの箱を一回り小さくしたものですか?」
証人「はい」
検察官は実際にタバコの箱を取り出しながら質問した。続いて、証人が薬物をトイレなどで処分した方法を質問していく。
検察官「どのように処分したんですか」
証人「その場では空のカプセルを処分しただけで、預けられた薬物を処分したのは、ゴミ捨て場です。袋ごとビニール袋に入れて捨てました」
検察官「42階のトイレではカプセルだけを処分したんですね?」
証人「はい」
泉田受刑者はカプセルだけをトイレに流して処分したという。
検察官「なぜ薬物を流さなかったんですか」
証人「薬物を流そうとも考えましたが、人の家だし、トイレに処分するのは乗り気がしなかったのでトイレにはカプセルだけを流しました」
検察官「いずれ部屋が捜査の対象になったとき、薬物がどこかに引っかかって検出されるとかも考えましたか」
証人「それもあります」
検察官「押尾被告に『体から薬物とか悪いものを取り除くものはないか?』と聞かれて、実際に手配したのですか」
証人「そういったものは手配しませんが、知っている人間に電話を入れて、落ち着かせる薬を手配してもらいました」
薬物を取り除くような都合のいい薬は当然ながら、存在しないようだ。
その後、42階の部屋を離れた押尾被告と泉田受刑者が、東京・錦糸町のホテルに移動した後のことに検察官の質問が移った。
検察官「押尾被告の携帯電話に警察署から電話がありましたね?」
証人「(押尾被告は)電話が鳴っているのには気づいていましたが、番号が警察からとは気づいていなかったので、私が教えました」
検察官「警察署からと気づいてからどういう反応をしていましたか」
証人「『なんて言えばいいかわからないし、どうしよう、どうしよう』と言っていました」
検察官「そこであなたは被告から相談されましたね」
証人「はい。『メールを入れちゃってるんだけど、どうしよう、何て言えば』と言われたので、『何が?』と話したら、『女の子にメールを入れてしまっている』と。『内容は?』と聞くと、『“来たら欲しい?”とメールを入れている』と」
検察官「どう被告に提案しましたか」
証人「自分は何も答えないでいたら、押尾は『俺って変態だから、俺のチンコが欲しいっていう意味と言えば良いよね。それしかないもんね』と自分を納得させるようなことを言っていました」
メールの意図を隠蔽する証人と押尾被告のやりとりは、すでに検察側の冒頭陳述でも明かされており、卑猥(ひわい)な言葉にも、法廷の空気に変化はない。
検察官「田中さんの容体の変化についても言っていましたか」
証人「はい。初めに様子がおかしくなり、宙を見て、無いものをにらみつけて大きい声でけんかをし出しました。歯を食いしばったりしてそのうちに顔色もおかしくなり、白目をむいてけいれんして、泡を吹いたと聞かされました」
検察官「それから被告は自分で警察署に出頭すると言ってあなたと別れましたが、別れ際には何か言っていましたか」
証人「『アッコのことよろしく頼む』と言われました」
検察官「アッコとは当時の被告の奥さんのことですか」
証人「はい」
押尾被告は、当時の妻で女優、矢田亜希子さんのことを出頭前、気遣っていたようだ。
検察官「先ほどから話を聞いていると、被告と仲が良かったようですが、あなたは逮捕されたときはMDMAを被告に譲り渡したのは否定していましたが、なぜ認めたのですか」
証人「確実な証拠がなかったのが一番の理由です。あとは、人が亡くなったので、直接は関係なくても、そのことの重さというか、私なりの責任の取り方というか、そのために見たことを話すのが責任の取り方と考えました」
「後は、本人にきちんと罪を認めてもらって、償ってもらうためにも聞いたことをきちんと話さなければと思ったのが、認めようと思った理由です」
検察官「被告に対する反感や怒り、ねたみから話したのではないのですね?」
証人「初めはなぜ自分が逮捕されるのか?などと思いましたが、今思うのは、私を含めて今回の裁判で証人として証言している人たちが、どういう思いで証言しているのか押尾には理解してもらいたいし、田中さんとか遺族のことを思うつもりなら、潔く認めて責任を取ってもらいたいと思ったからです」
検察官「ちなみに、あなたは前科の関係から、認めてしまえば確実に刑務所に行くことになるわけで、被告に合わせて認めていなければ、刑務所に行かなかったかもしれないわけですが、例えば検察官や警察官から、『認めれば、仮釈放してやる』とか言われたわけではないんですね」
証人「そういうことはありません。苦渋の選択でした」
検察官「終わります」
山口裕之裁判長が休廷を告げた。約1時間半の休憩後、午後1時半から再開される。午後は弁護人の反対尋問が行われる予定だ。