(9)女性刑事の追及に“完落ち” 20分の沈黙後「私がした」
咲被告の取り調べを担当した女性刑事への質問が続く。
検察官「(絵里子さんの持ち物がなくなったことについて、咲被告が犯人扱いされたと供述をした)その後はどうしたのか?」
証人「咲被告と被害者が不仲であると上司から聞いていたので、事件発生日のアリバイの確認をするため、当日どのような行動をしたのかを聞いた」
検察官「被告はどのように答えたか?」
証人「『実家には行っていないし、被害者とは会っていない。昨日(事件が起きた平成19年11月7日)義母から連絡があり、実家に行くまでずっと会っていなかった』と言った」
検察官「『会っていない』ということを強調したのか?」
証人「はい」
証人は警察官らしく、よどみなくはきはきと正確に答える。
検察官「犯行当日のことはどのように説明した?」
証人「『主人たちと買い物に出かけ、その後1人でガソリンを入れに行き、スーパーで買い物をして帰った』と話していた」
検察官「他にはどのように説明したか?」
証人「『主人にスーパーに寄るとメールを打った。スーパーでエリンギを買い、それを持って帰った』と話していた」
検察官「被告の供述に不審点はなかったのか?」
証人「あった。まず行動が不自然だった。供述にも一貫性がなかった」
検察官「態度に変化はあったか?」
証人「取り調べ当初から緊張していたが、事件発生時の話を聞き始めるとソワソワし始め、落ち着きがなかった」
検察官「具体的には?」
証人「視線が天井や壁に向けられたり、生つばを飲んだり、急に汗をかいたり、深呼吸をしたりするようになった」
検察官「証人はそういう咲被告を見て何を考えた?」
証人「行動が不自然で態度がおかしい。咲被告が犯人ではないかと思った」
検察官「それは何時くらい?」
証人「取り調べをはじめて1時間後くらい。午後2時くらい」
検察官「咲被告はその時点ではまだ否認か?」
証人「はい」
咲被告の自首が成立するかどうかは裁判の争点となっている。弁護側は冒頭陳述で、咲被告が警察に参考人として事件翌日に呼ばれた際、夫が「本当のこと言ってね」と話したのを思い出し、取調官に“自首”したと主張している。重要な部分なので裁判長の確認が入る。
裁判長「否認だったんですね」
証人「はい」
検察官「その時点での証人の取り調べのスタンスは?」
証人「(被害者の親族としてではなく)被疑者としての取り調べを始めた。供述の矛盾点を追及したり、咲被告に同情したりしながら本当のことを話させようとした」
検察官「咲被告の変化は?」
証人「自分の中で一生懸命考え、繰り返し繰り返し考えながら話しているようだった」
検察官「詰まったり沈黙したりしたこともあった?」
証人「あった。取り調べ当初はなかったこと。咲被告が犯人だという疑いが強くなった」
検察官「その時点で咲被告にどのようなことを言ったか?」
質問はとうとう咲被告の“自供”の瞬間にたどり着く。
証人「『本当のことを言ってください。事件に関係あるでしょう』と言った」
検察官「その時の咲被告は?」
証人「『違う』と言った。本当のことをいうように説得した」
女性刑事が咲被告を“完落ち”させる過程が浮き彫りになる。
証人「『あなたは子供を持つ母親。夫のいる妻。そういう立場にいる人なら正しいことを言わないといけない』と言った」
検察官「咲被告の変化は?」
証人「黙ってうつむいたままだった。それが20分くらい続いた。上半身を揺すり、両手を振るわせて沈黙した後、『今回の事件は私がしたこと』と話を始めた」
検察官「咲被告は泣いていた?」
証人「はい」
検察官「それは何時ごろ?」
証人「午後4時20分ごろ。取り調べを始めて3時間以上経っていた」
検察官「咲被告はなぜ否認していたのか?」
証人「『私は子供の母親の資格がなくなる。夫の妻の資格がなくなる』と言っていた」
検察官「資格がなくなるのが怖くて話せなかったということか?」
証人「はい」
15時28分、検察側による質問が終了した。