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(5)妻をかばう夫 被告席で拳握り締める妻

咲被告の夫に対する弁護側の尋問が続く。被告は床に視線を落としているが、顔は紅潮している。夫の声を、体の前で合わせた手の指を小さく動かしながら聞き入った。

弁護人「19年5月に入ってから、いや4月でもいいか。社会福祉協議会で絵理子さんのものが紛失したことはあったか?」

証人「そのことは妻と母から聞いた」

弁護人「リアルタイムで聞いたのか?」

証人「財布と携帯電話がなくなったのは、勤務後にメールで聞いた」

弁護人「被告から直接聞いたことはあるのか?」

証人「『私(咲被告)が疑われている』と聞いた。聞いたのは…平成19年の5月以降だがはっきり覚えていない」

弁護人「19年6月に、被告が知的障害者の部署に異動したでしょう?」

証人「はい、妻と母から聞いた。最初は妹が異動になると聞いていたから、突然、妻が異動になって驚いた」

咲被告は視線を下げたままだ。

裁判長「誰から聞いたのか?」

証人「妻からです」

弁護人「そのとき絵里子さんについて、被告は何と言っていた?」

証人「絵里子とは直接は言っていないが、異動について、いい思いはしていないと(思った)。相当悩んでいた」

弁護人「19年5月に被告と義理の母親が話し合ったのを知っているか?」

証人「話の中身を聞いたのは後だが、『メールでお互い、言いたいことは言うようにしよう』という内容と聞いた」

弁護人「7月16日に引っ越しているが、そのときに被告と絵理子さんにトラブルがあったでしょう?」

証人「現場にはいなかった。だが、『母から娘の生活資金をいただいたが、(絵理子さんに)返せと言われた』と。あと『離婚してお前がいなくなるか、死ぬかのどっちかにしろ』と」

弁護人「引っ越しはどちらが持ちかけたのか?」

証人「妻の気持ちをわかっていたから、僕から『出ていこう』と言った」

弁護人「トラブルがあってすぐに引っ越したのか?」

証人「『早く出て行け』と言う内容のメールが妻にきたので、すぐに引っ越した。あと、娘の保育園で『お前の一番大事なものを傷つけてやる』と言われたと。『心配だ』と言っていた」

弁護人「ほかに被告の様子はどうだった? 引っ越しの後は?」

証人「『眠れない』と後になってから聞いた。聞いた時期は記憶していない」

弁護人「被告は絵理子さんと同居してから毎日泣いていたのか?」

証人「自分が眠れないときに、夜中にすすり泣きみたいなのが聞こえてきて…。でも、毎日泣いていたかは確認していない」

夫の記憶がはっきりせず、弁護人の質問も切れを欠く。裁判長も時折、顔をしかめるようになった。

弁護人「あなたは心配して被告に声をかけた?」

証人「していない。そっとしといたほうがいいかなと…」

被害者の兄でもありながら、犯行後も離婚はしないと明言し、咲被告に一貫して同情的な立場を示す夫。その言葉を聞き、咲被告は手をぎゅっと握りしめた。当時、伝えたいことが本当はあったのだろうか。

弁護人「絵理子さんとの関係で悩んでいたのは知っていた?」

証人「知っていた」

弁護人「被告から『防犯カメラを付けたい』という相談はあったか? あと『裁判を起こしたい』という話はされたか?」

証人「…ない」

弁護人「19年7月に○○病院(実名)に行ったでしょう?」

証人「はい。頭痛が続いて、ひどいと言って、市販の頭痛薬じゃ治らないと。だから受診しろと言った」

弁護人「病院でなんと言われた?」

証人「まず楽しい絵と嫌な絵を書いてといわれて、その後に赤い服を着なさいと言われた。それまで妻は赤い服を持っていなかった。グレーとか黒が多かった」

被告の精神状態についての尋問に、検察官は厳しい表情で証人と被告を見つめる。

弁護人「それで被告は赤い服をいつから着たの?」

証人「いつからは覚えていないが、病院に行ってその後に…。『買ってきたよ』って言われて、赤と白のストライプの上着を見せられた」

弁護人「表札、名前のプレートをはずされた話は聞いていた?」

証人「10月(19年)に聞いた。私の名前だけがないと聞いた。自分も確認に見に行ったら確かになかった」

弁護人「それに対して被告と証人は、絵理子さんの仕業かという話をしたか?」

証人「いや…(首をかしげて答えない)」

⇒(6)「妹より妻」法廷の夫は明言