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(12)「自首」成り立つのか? 「いじめ過剰反応」疑う検察官

被告人質問で情状面の質問を終えた弁護人は、公判の争点である自首についての質問を続けた。弁護側は、咲被告が警察に参考人として聴取された際、取調官に自ら本当のことを供述したことが、自首に当たると主張しているが…。

弁護人「(犯行翌日の)平成19年11月8日、警察に呼ばれ、だんなさんと一緒に行ったね? 行く途中、だんなさんと何か話した?」

咲被告「覚えていない」

弁護人「事件について話してないのか?」

咲被告「覚えていない」

弁護人「だんなさんとは取調室に入ったときに別れた?」

咲被告「はい」

弁護人「だんなさんに何と言われた?」

咲被告「『嘘はいけないよ』と言われた」

弁護人「どういう気持ちで取り調べを受けた?」

咲被告「『本当のことを言わなきゃいけない』と」

弁護人「事件のことを聞かれたのは何分くらいたってから?」

咲被告「時間はわからない」

弁護人「しばらくたってから?」

咲被告「はい」

弁護人「本当のことは言えた?」

咲被告「言えなかった。…怖かった」

弁護人「いつの段階で犯人扱いされているとわかった?」

咲被告「犯人扱いされているとはわからなかった」

結局、取調官に犯行を自供した咲被告。続いて弁護側は、金づちで殴り、首を絞めたうえ、包丁で何回も刺した残忍な手口について質問していく。

弁護人「金づちを用意しているが、金づちを選んだ理由は?」

咲被告「お店に入って…(目に)入った」

弁護人「金づちでどうすれば死ぬと?」

咲被告「最初は2、3回くらいでいいと思った」

弁護人「何度も殴って痛めつけようとは思っていなかった?」

咲被告「はい」

弁護人「3回くらいで死ぬと思った?」

咲被告「はい」

弁護人「でも(絵里子さんは)死なず、何度もたたきつけたときの気持ちは?」

咲被告「怖かった」

弁護人「後戻りしようと言う気持ちは?」

咲被告「なかった」

弁護人「包丁でも何度も刺しているが、どういう気持ちだった?」

咲被告「……」

犯行時の様子について、咲被告は多くを語ろうとしない。弁護側は「あくまでネームプレートを見て抑えきれなくなっちゃったんだよね?」と犯行が突発的だったことを強調すると、最後の質問をした。

弁護人「今、一番思っていることは?」

咲被告「やはり、自分のしたことをちゃんと償っていくしかないと思っている」

続いて検察官が質問に立った。咲被告にとって都合の悪い質問に、咲被告のか細い声はさらに小さくなる。まずは争点となっている自首の成立に関連して、咲被告の警察署での供述を確認する。

検察官「11月8日、警察官に事情を聴かれた。その際、警察官に『犯人はまだわからないんですか?』と聞いたことはあるか?」

咲被告「あったと思う」

検察官「自分が犯人じゃないと思わせるため?」

咲被告「はい」

検察官「『茅野市内のガソリンスタンドやスーパーに行った』と嘘をついた?」

咲被告「はい」

検察官「『(犯行時に)被害者の家に行ってない』とも言っているか?」

咲被告「はい」

検察官「19年2月、絵里子さんが同じ職場に勤め始めたが、それを気に入らないという気持ちがあった?」

咲被告「はい」

検察官「介護福祉士の資格を持っていないことも気に入らない理由か?」

咲被告「それはなかったと思う」

検察官「供述調書ではそれも理由にあげているが?」

咲被告「…」

検察官「それが理由かどうかわからないか?」

咲被告「はい」

咲被告は絵里子さんから数々の嫌がらせを受けたと主張し、弁護側は「いじめ」と断定している。しかし、検察側は嫌がらせの実態について疑いがあるようだ。

検察官「嫌がらせを受けていたというが、確実に絵里子さんがやったと言えるのはどの行為?」

咲被告「怒鳴ったりとか…」

検察官「それ以外は推測のレベルだよね?」

咲被告「はい」

検察官「19年7月に別居してから、絵里子さんから嫌がらせをされていると感じることはあまりなかった?」

咲被告「はい」

検察官「ネームプレート以外はなかった?」

咲被告「はい」

検察官「19年4月、あなたが車に傷を付けたきっかけは?」

咲被告「3月末に娘に手を出されたこと」

検察官「直接見たのか?」

咲被告「いいえ」

検察官「推測のレベルか?」

咲被告「はい」

検察官はさらに、絵里子さんを殺して自分も死のうと考えていたという咲被告の証言についても疑いを示す。

検察官「事件の直前、本当に自殺を考えていたのか? 迷いがあったのか?」

咲被告「そのときは死のうと思っていた」

検察官「死のうとしているわりには、指紋がつかないようにしたり、近所に見られないようにしたり、だんなさんにメールしたり、どうしてそういう行動を取ったのか?」

咲被告「…わからない」

検察官「絵里子さんを殺害後、自分のしたことへの後悔はあったか?」

咲被告「あった」

検察官「一方で、きょうだいには週末にどうするとか普通の行動を取っている。そういうことを考えることができたのか?」

検察官の質問に沈黙することが多い咲被告だが、この質問には反論した。

咲被告「主人から言われて(メールを)送った」

検察官「絵里子さんを殺害して、後悔で何もする気が起きないという気持ちではなかった?」

咲被告「はい」

検察官の質問はここで終了。再度、弁護人の質問が始まる。

⇒(13)嗚呼地獄…なぜ離れられず、仕事変えられなかったか