(2)犯行直前…「赤い服は気持ちが変わる」

検察官は、犯行時の咲被告の心理状態を簡潔に質問していく。咲被告は意味を考えてからゆっくり答える。
検察官「被害者を包丁で刺しているとき、絵里子さんの顔を見ることができたか?」
咲被告「見られなかった」
検察官「なぜ?」
咲被告「怖かったから」
検察官「絵里子さんを殺害した後、どこから出たか?」
咲被告「台所のサッシ戸から」
検察官「なぜ?」
咲被告「…。玄関からだと見つかると思って」
検察官「近所の人に見られると?」
咲被告「はい」
検察官「あなたは絵里子さんを殺害した後に自殺しようと考えたか?」
弁護人「自殺を考えた時点を特定して質問してほしい」
検察官「時点は特定せず、考えたことがあったか?」
咲被告「はい。犯行前はあった」
検察官「犯行後は?」
咲被告「怖くなって…逃げた」
咲被告はここで涙声になった。
検察官「自殺は?」
咲被告「考えていなかったと思う」
検察官「当日の夜1時ごろ、妹に『明日は土曜だけれど来る?』とメールをしているね?」
咲被告「妹が遊びに来る予定だった」
検察官「チーズフォンデュのパーティーをするつもりだったのでは?」
咲被告「はい」
検察官「犯行直後に、週末のことを考えていたということか?」
咲被告「はい」
犯行後の咲被告の冷静な行動を明らかにすることで、咲被告に責任能力があることを証明したい検察側は、さらにたたみかける。
検察官「11月8日、警察に呼び出され、犯行時の行動で、茅野市のスーパーに行っていたとうそを話したのはなぜか?」
咲被告「…自分が犯人じゃなくて…」
咲被告はそこで沈黙。緊張した様子で息を大きく吸ったり吐いたりを繰り返す様子が再び目立ってきた。肩が小刻みに前後にゆれている。
検察官「自分が犯人じゃないと?」
咲被告「警察の人に(そう)思わせるために」
検察官「逮捕後の取り調べでも、自動車に傷を付けたのは自分ではないとうそをついた。なぜ?」
弁護側の冒頭陳述では、いじめを繰り返す絵里子さんに耐えかねた咲被告が、絵里子さんの車に傷をつけたことが明らかにされている。
咲被告「…車の傷のことを話せば、他のことも自分がやったんだと思われる。本当のことは言えなかった」
検察官「他のこととは?」
咲被告「財布とか携帯がなくなったこととか、洋服がなくなったこととか」
検察官「携帯などはあなたがやったのでは?」
咲被告「違う」
ここで検察官の被告人質問が終わった。荒川英明裁判長が、弁護人に再度質問するかを聞く。弁護人は、「10分くらい尋問したい」と立ち上がった。
弁護人「犯行計画をルーズリーフに書いたメモが出てきたが、そのときはその通り実行しようと考えていた?」
咲被告「はい」
弁護人「犯行を決意した時点は、(実家の絵里子さんのたんすの中に)表札を発見したとき?」
咲被告「はい」
弁護人「そのときは犯行メモのことは頭になかった?」
咲被告「なかった」
弁護人「翌土曜日、妹と遊びに行く予定だった。どこに行く予定だった?」
咲被告「…」
弁護人「八ケ岳の辺りでは?」
咲被告「(うなずきながら)そう」
弁護人の方を向き、首をかしげたりうなずいたりしながら答える咲被告。弁護側は咲被告の証言から、犯行に計画性はなかったと導き出したいようだ。
弁護人「予定のある前日にこんなこと(事件)を起こそうとは思っていなかった?」
咲被告「はい…はい」
弁護人「(犯行前に)メールを送ったり、買い物に行ったり、あなたはアリバイというが、警察にそういうアリバイの話をして(疑いを)免れようと、そこまで考えていたのか?」
咲被告「…」
弁護人「だんなさんに対してだけではないのか?」
アリバイ工作は、警察から逃げようとしたためではなく、夫に疑いを向けられないために行われたのではないかと主張する弁護側。検察官がここで割って入った。
検察官「誘導しないでほしい」
裁判長「そうだね。まず被告の答えを聞いて」
弁護人は同じ質問を繰り返し、咲被告は「主人に対して考えていた」と夫に向けてアリバイ工作をしたことを認めた。
弁護人「事件の直前、知人に会ったね? 誰?」
咲被告「以前職場で一緒だった○○さん(実名)」
弁護人「会ってどうした?」
咲被告「会釈をした」
弁護人「○○さんに見られたのに家に入っていたのはなぜ?」
咲被告「そのときはいなくなると思っていたので」
裁判長「いなくなるとは?」
咲被告「死のうと考えていたので」
弁護人「あなたは11月ごろから、赤い服を着るようになったというがなぜか?」
咲被告「体調をくずして病院に行ったとき、先生に赤い服を着るよう勧められた」
弁護人「どうして?」
咲被告「気分転換が…気持ちが変わるから」
弁護側は、咲被告が精神的に追いつめられ、内科に通っていたことを明らかにして質問を終えた。