(7)「落としてやろう」→「やろうかな」抗議で調書訂正
引き続き弁護側は、警察、検察両者による捜査の任意性、違法性について疑問を投げかける。弁護士は時折、どもりながらも早口で最終弁論の読み上げを続ける。
弁護人「検察官による殺意と自白調書について。被告は『魚が見たいという彩香ちゃんにイライラしてやった』という調書に署名してしまった。被告は『そんなことは言っていない』と抗議したが、検察官に『今さら否定しても無駄』と強引に責められ、署名してしまった。被告は悔しくてたまらなくなり、ボールペンを自分の腕に2回押し付けた。検察官に意に沿わない調書を抗議だった」
それでも、鈴香被告が調書へ署名したのは、あくまで検察官への恐怖心からだと訴えた。
次に、警察官による強引な取り調べについて訴えが移った。
弁護人「7月23日の調書を取るに当たって、被告が腰の痛みを訴え、休憩を申し出たが、『休みたいのなら署名しろ』と取調官は言い、被告を立たせたまま調書を取った。他方、取調官は公判で『イスに座らせたまま調書を取った』というが供述に信用性が乏しい。このときの1時間15分もの取り調べは、『常に被告に休憩を取らせていた』という取調官の供述と矛盾し、都合の良いストーリーだ」
弁護士は、法廷内が暖房で暑いためか、ハンカチを取り出し汗をふきながら続ける。
弁護人「続いて、(彩香ちゃんを落とした)橋の上では、確定的な殺意がないとの被告の抗議を受け、『落としてやろう』から『落としてやろうかな』へと調書を訂正。これは訂正のあり方として不自然だ」
鈴香被告は時折、傍聴席に目をやるが、相変わらず視点が定まらず無表情のまま。
弁護人「検察官は、被告は取り調べのたびに殺意を否定したが、『情状のためできるだけ我慢しなさい』と情状面でリードしていた。殺意については『怖かったから手を振り払った。アクシデント』と公判同様の供述を当時からしているのに、一切無視されていた」
さらに弁護側は、被告の供述を引き出すにため、検察側の利益誘導があったことを指摘する。
弁護人「拘留の最後の10日間。被告は日記で『量刑を思うと、いつもは読書すれば気が晴れるのに、今日はモグラのように気分が沈んでいく』と述べるなど、被告は自分の量刑を不安に感じていた。だが、『公判で意見を翻しても(前言を)覆すのは困難。殺意を認めれば情状を軽くする』と利益誘導していたことが、殺意を認めてしまった背景だ」