(13)メールがはけ口「危うい精神状態ではない」
弁護側は鈴香被告と周囲の人々のコミュニケーションに触れ、彩香ちゃんへの殺意を否定しようとする。
弁護人「彩香ちゃん事件の当時まで、被告人は友人や母親、弟、交際男性などとコミュニケーションを取り、日常の不満のはけ口にしていた。殺人を犯すような危険な精神状態ではなかった」
「友人や通院仲間と頻繁にメール、手紙を交わしている。10カ月で250件とかなり多い。これは、友人が被告の悩みを聞きいていたということ。被告が心理的に周囲に支えられていたことの証左だ」
友人とのメール交換をめぐり、検察側はこれまで、こんな主張を展開してきた。「メールの中で、彩香ちゃんに対する殺意をほのめかしていたことがある」。これに弁護側がかみつく。
弁護人「友人あてのメールの中で、被告が子供の列に自動車が突っ込んだ事件に触れ『列の中に彩香がいればいいのに』と書いた、と検察は言う。しかし、これは殺意でなく、子育ての煩わしさを比喩(ひゆ)的に表現しただけ」
一呼吸置くと、検察側が主張する「彩香ちゃんに対する確定的、持続的殺意」にも異を唱え始めた。
弁護人「事件の数日前には彩香ちゃんと能代市内で買い物をしている。すき焼き用の食材も買った。事件当日には『魚をみたい』という彩香ちゃんを連れ出した。面倒くさいなら怒ってはねつければいいのに、外に連れ出している。殺人を犯しかねない危うい精神状態にあったとは思えないし、持続的に殺意を持っていたとも考えられない」
では、なぜ彩香ちゃんは橋から転落したのか。弁護側によると、鈴香被告の「スキンシップ障害による反射的、無意識的動作」だという。
弁護人「鈴香被告は以前から、友人や弟に『彩香にまとわりつかれるのが嫌。触られるのも嫌だ』と語っていた。症状は病院の診療記録でも明白。(橋の欄干の上から被告にしがみついてきた)彩香ちゃんは、被告からみると『自分より高いところから覆いかぶさってきた』わけで、被告にとって経験したことのない状況だった」
「だから、被告はとっさに手を振り払った。反射的、無意識的動作と言うべきで、殺人の実行行為はない。過失致死とすべきだ」
続いて、豪憲君殺害について。弁護側はまず、被告の心理状態に言及する。
弁護人「検察官は、豪憲君殺害を『マスコミ、近隣住民に激しい憎悪を抱き、自分を不当に無視する社会への報復』と位置づける。だが、鈴香被告が社会への報復を口にするのを聞いた人はいないし、取り調べでも、本人はそんな感情を否定している」。
「これまでの鑑定の結果などから、被告の本質は『内面的』といえる。怒りや攻撃性は特筆すべきことでない」