Free Space

(6)弁護側の最終弁論始まる「イタコはプレッシャー」

秋田連続児童殺害事件の論告求刑公判は、午後1時半から弁護側の最終弁論に入った。死刑求刑を受けた鈴香被告は、午前中と表情を変える様子もなく、いつもの通り、軽く一礼をした後、自席に座り、焦点の定まらない視線を前方に向けた。藤井俊郎裁判長が「では、弁論をお願いします」の声で、主任弁護人が立ち上がる。

弁護人はまず、長女の彩香ちゃん=当時(9)=殺害事件について論じ始めた。

弁護人「被告は誤って(彩香ちゃんを)転落させたものであり、過失致死罪は成立しても、殺人罪は成立しない」

これまでの主張通りに弁論を行う弁護側。彩香ちゃん事件については、証拠が捜査段階の自白以外になく、任意性はないことを強調する。

弁護側が訴えようとしているポイントの1つは、米山豪憲君=同(7)=に対する死体遺棄容疑および殺人容疑で拘留されている際に、彩香ちゃん事件について被告に尋ねたのは不当であるというものだ。

弁護人「(警察の)調書では、『豪憲君事件に関連があるが』と書いた上で、彩香ちゃん事件で行うべき質問をしている」

つまり、調書には“言い訳”が書いてあり、捜査側は、その違法性を意識していたというものだ。

さらに、長時間に及んだ取り調べを追及していく。

弁護人「午前9時から午後9時まで、時には10時まで取り調べが行われ、心身の休まる時間はほとんどなかった」

証人尋問で出廷した取り調べにあたった警察官や検察官は、しっかりと休憩を与えたというが、実際にはそれは十分なものではなく、「人間の限界を超えていた」と訴える弁護側。

弁護人「警察官、検察官は、被告の休憩の申し入れをとがめたことはないといいながら、一方では被告の様子をみながら、取り調べを続けていたことを認めている。それは、捜査官の都合のよい判断を認めているものである。また、被告の了承を得てやったというが、被告の真の同意を得られているわけではない」

弁護側は、検察側が取っていた休憩は、あくまでもアリバイ的なものだと主張する。

話は、黙秘権や弁護権の侵害に移った。取り調べの際に「鈴香被告には弁護士がついているからいいが、彩香ちゃんは誰が弁護するんだ」などといったり、「イタコに話を聞いた」などと言って精神的にプレッシャーをかけていったという。

さらに、豪憲君の遺体写真を見せたことにも言及。裁判では、警察官や検察官は「鈴香被告が見たがったから見せた」と述べていたが、弁護側の主張は違うという。

弁護人「『豪憲君のことは覚えていて、彩香ちゃんのことを忘れたでは話が通らない』などと言われ、豪憲君の遺体の写真を見せられ、彩香ちゃんの件を何が何でも話させようとした」

「アリに食われたような跡がある写真を何度もせがむというのは考えられない」

弁護をしてもらっている鈴香被告だが、その言葉は耳に届いているのだろうか。論告求刑が行われているときと同様、表情に変化は乏しく、視線もうつろだった。

⇒(7)「落としてやろう」→「やろうかな」抗議で調書訂正