(1)彩香ちゃんに「確定的殺意」検察側が論告
秋田連続児童殺害事件で、殺人と死体遺棄の罪に問われた無職、畠山鈴香被告(34)の論告求刑公判が、25日午前10時半から、秋田地裁(藤井俊郎裁判長)で開かれた。
前日から降り続く雪は、冷たい北風とともに、道行く人々の身も心も凍らせていく。秋田地裁の敷地内は、10センチ以上降り積もった雪で、一面の銀世界になっている。
開廷前には、26席の一般傍聴席を求めて977人が並んだ。依然として事件に対する関心の高さが伺える。
法廷に姿を現した鈴香被告は、薄い縦線の入ったブラウス黒ジャケット、黒ズボン、ピンクのサンダル姿。軽く一礼をし、裁判官に向かって右側の席に座る。前髪は目にかかるほどの長さで、うつろな視線を検察官に送っている。
傍聴席には、米山豪憲君=当時(7)=の両親が、遺影を掲げて座っているが、両親同様に毎回傍聴を繰り返してきた鈴香被告の母親と弟の姿は見えなかった。まもなく藤井裁判長が、開廷を宣言した。
藤井裁判長「開廷します。検察官、論告をお願いします」
検察側はまず、長女、彩香ちゃん=同(9)事件と、豪憲君事件の動機面について言及、精神的にも問題がないことも主張した。
検察官「日ごろから彩香ちゃんを疎ましく思う気持ちを高まらせた」
「(豪憲君については)警察やマスコミに憎悪を募らせ、自己に向けられた疑いの目を他にそらすことを目的に殺害した」
「完全責任能力に疑いはない」
続いて、鈴香被告が彩香ちゃんをかわいがっており、疎ましさを感じていなかったとする弁護側の主張を崩すための説明を始めた。
検察官「確定的殺意を持って、彩香ちゃんを突き落としたのは明らか」
検察側は、これまでの公判で証人として出廷した鈴香被告の友人や交際相手、近隣住民、彩香ちゃんの担任らの証言は信用できると主張。次に鈴香被告が通院していた精神科のカルテの内容を読み上げる。
検察官「『触られるだけでいやだというのがあった』『子供のことでイライラすることがある』『子供に当たり散らしてしまう』『彩香を不満のはけ口にしていた』」
捜査段階では、鈴香被告をかばう証言をしていた交際相手が、「鈴香被告がたびたび東京に行きたい。彩香が邪魔だ」と証言したことを重視すべきとする検察側。さらに、交際相手が来訪した際に彩香ちゃんが外に出されていたことをはじめとした、鈴香被告による彩香ちゃんの養育状況を赤裸々に語っていく。
検察官「彩香ちゃんが、ひどい吹雪のなか、鈴香被告と交際相手の車の間で、所在なさげに立っている姿を複数の住民が見ている」
「被告は、育児よりも交際を優先していたことが分かる」
さらに、小学生の列に車が突っ込んだ事故を知り、「彩香がその中にいれば良かったのに」、と記して友人に送ったメールから、以前から潜在的殺意を持っていたと指摘。親の前では、彩香ちゃんをかわいがる態度を見せていたのは、外面をよく見せようとする現れだと断じた。
そして、検察側は彩香ちゃん事件について総括する。
検察官「彩香ちゃんに心からの愛情を感じることができない」
「彩香ちゃんの世話を十分に行うことができない」
「彩香ちゃんの存在が邪魔になり、日常の不満を彩香ちゃんにぶつけていた」
「攻撃性が高まっていった」
鈴香被告の彩香ちゃんに対する対応を断罪している、まさにそのとき、鈴香被告の母親と弟が息を切らせて傍聴席に入ってきた。外は大雪。天候のため遅れたのだろうか。