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(16)被告が放った最後の言葉は…

弁護側の情状に関する弁論が続く。検察側が論告求刑で「人の心を持ち合わせていない」と指弾した人間性について、弁護側は苦しい釈明をする。

弁護人「豪憲君の遺族に対する暴言から、人間性が欠如しているということだが、一過性のものであり、ほかに人間性の欠如をうかがわせるものはない」

鈴香被告は日記に「後悔や反省はしているが、(長女の彩香ちゃんの殺害事件と比べて)罪悪感はほとんど感じない。米山さんがなぜ怒っているのか分からない。まだ(兄弟が)2人残っているではないか」と記すなどして、豪憲君の遺族感情を逆なでしてきた。弁護側は最終弁論でこうした言動は一時的なものと訴え、さらに検察側の死刑求刑の前提となった「更生不可能」についても反論する。

弁護人「被告は反省、謝罪をしている。検察側は更生不可能と断じているが、更生の可能性は失われていない。家族も謝罪の気持ちを持たせ、更生させることを誓っている」

「被告の家族は狂乱的取材を受けながらも、このような意思を示していることは、更生にプラスになる」

弁護側は被告に前科がないことなどを有利な事情として示しながら、求刑を求めた。

弁護人「以上述べた事情を考慮し、有期の懲役刑を求める」

弁護側の最終弁論が終了。検察側が最終弁論の表現数カ所について異議を唱え、弁護側が削除に応じた。審理が終了し、裁判長が鈴香被告に語りかける。最終の意見陳述だ。

裁判長「最後に言いたいことはありますか?」

鈴香被告はその言葉に促されるようにして立ち上がり、弱々しい足取りで証言台に立ち、言葉を絞り出した。

鈴香被告「米山さん一家には大事な家族を奪い、本当に申し訳ありませんでした。地域の皆さんに不安、恐怖を与え、申し訳ありませんでした」

最後に謝罪の言葉を述べたものの、退廷する際に豪憲君の両親に視線を送ることも、頭を下げることもなかった。豪憲君の母親は遺影を抱きかかえるようにしながら、退廷する被告の背中をにらみつけた。離れた席に座る被告の弟は、両手で顔を覆った。

裁判は昨年9月に始まり、13回目の公判で結審した。鈴香被告は父親に暴力を受けるなど不幸な生い立ちなどについては積極的に証言したが、事件の核心部分で口を閉ざす場面も。彩香ちゃん殺害が過失と認定されなければ、控訴する可能性も示している。

鈴香被告はどこまで真実を語ったのか。法廷内にはやり切れなさも残った。判決は3月19日の予定だ。

⇒第14回公判