(2)少女期に父親の激しいDV その理由は…
検察官による証拠採用調書の読み上げが終了し、午前10時35分、藤井俊郎裁判長が「それでは弁護側の証人尋問を行います」と宣言した。傍聴席からゆっくりと証人席に進んだのは、初公判から欠かさず傍聴を続けている、鈴香被告の母親だった。
スーツ姿で、緊張気味にいすに腰掛ける証人の横顔を見る形で座る鈴香被告は、数秒間目をつぶった。
弁護人「あなたは畠山鈴香被告の実の母親ですか?」
証人「はい」
弁護人「今年3月13日に夫と離婚したか?」
証人「はい」
弁護人「理由は?」
証人「いろいろあったんですけど…決断したのは、『鈴香が彩香を殺したなら、絶対鈴香を許さない』と。それで決断した」
弁護人「その言葉が許せなかった?」
証人「はい」
弁護側の質問は、この鈴香被告の父親の家庭内暴力(DV)についての話題へ。証人は、鈴香被告が法廷で述べたことを次々と肯定していく。
弁護人「暴力を受けていた?」
証人「はい」
弁護人「激しくなったのは?」
証人「何かあればすぐ暴力に訴える生活だった。鈴香が中学生のとき、糖尿病で3カ月ほど入院し、男性として機能が立たなくなり、私と娘への暴力が激しくなった」
弁護人「頻度は?」
証人「週2、3回だったり、2日続けてだったり。そのときによって、あの人の気分次第で暴力が続いた」
弁護人「一番ひどかった暴力は?」
証人「左足首のねんざでくるぶしの骨が欠けた」
弁護人「暴力の内容を聞いている」
証人「踏んだり蹴ったり。髪を引きずってふっ飛ばしたり。そういう暴力」
弁護側は、鈴香被告の不遇な家庭環境を強調しようと、さらに細部を詰めていく。
弁護人「暴力はどうなると終わるのか?」
証人「酔っ払って動けなくなるとか、自分が眠くなったり疲れたりすれば終わる」
弁護人「鈴香被告はいつも見ていた?」
証人「見ていたというより…突然食事中に始まるので、巻き込まれるという感じだった」
弁護人「例えば?」
証人「言葉尻をとらえて、鈴香にも当たってくる」
弁護人「鈴香被告が暴力を受けるようになったのは?」
証人「小学生でもあったが、中学生からひどくなった」
弁護人「暴力はしつけと関係あるか?」
証人「ない」
弁護人「なぜそう言える?」
証人「食事以外はほとんど家にいなかったので。しつけらしいしつけはしていない」
弁護人「鈴香被告をかばったことは?」
証人「小学生のときはかばっていたが、中学生ではかばっていない」
弁護人「なぜ?」
証人「お互い、かばえば暴力が長くなると気づいたから。かばった人間に対してもふるう状態だったので」