(1)証拠採用で検察側有利に 母親は証言台へ
秋田連続児童殺害事件で、殺人と死体遺棄の罪に問われた無職、畠山鈴香被告(34)の第10回公判が、3日午前10時から秋田地裁(藤井俊郎裁判長)で開かれた。
法廷内の撮影が終わり、しばらくしてから入廷してきた鈴香被告は黒ジャケットに黒ズボン、白地に薄く青と赤のストライプが入ったシャツ姿。足下はいつものようにピンクのサンダルが見える。
傍聴席には毎回、鈴香被告の母親と弟が訪れているが、この日傍聴席に姿を現したのは母親のみ。今公判では母親と弟が証人として証言台に立つことが決まっている。母親はいくぶん緊張気味のように見える。
冒頭、藤井俊郎裁判長が口を開く。これまで任意性を争っていたため、弁護側が不同意としてきた捜査段階の供述調書を採用することを決定したとの説明だった。
今公判では、争点のひとつとして、捜査段階における鈴香被告の供述の任意性が争われてきた。供述調書の証拠採用決定は、取り調べに不当な部分はなく、鈴香被告の意志で供述していたと裁判所が判断したことになり、検察側に有利に働くことは間違いない。
裁判長「(鈴香被告は)思いだせないが、思いだそうと努力しようとしていた」
「豪憲君殺害が彩香ちゃんの死亡と関連性があった」
「(調書への)署名押印をためらったこともあったが…」
藤井裁判長が早口で判断理由を読み上げる間、厳しい表情で書類を眺める弁護側。鈴香被告は、その意味が分かっているのかいないのか、表情を変えないまま、正面を見据えている。
裁判長「現時点では、任意性は認められるものと判断する」
藤井裁判長が読み上げ終わると、すぐさま弁護側が声を上げた。
弁護人「異議あり」
藤井裁判長は検察側に意見を求めた後、「異議申し立てを棄却する」と一言。すると検察側は席から立ち上がり、証拠採用された証拠書類を手に、取り調べ段階での鈴香被告の供述を、あらためて読み上げる。
検察官「イライラのはけ口は、彩香と○○(元夫、実名)しかいなかった」
「彩香が怖かった。いなくなればいいのにという思いがだんだん強くなっていった」
「自分の自由や希望が失われ、イライラが募っていった」
「犯行時、川に落とそうと思った」
「(落としたとき)『お母さん』という叫び声が聞こえていた」
「(犯行後、現場の)大沢橋に行っていないと必死に自分で思い込もうとした」
「(捜査を求める)チラシを配っていたころには、彩香を突き落としたことは思いださないようになっていた」
「彩香や私のことを軽く考えている町の人に、恨みや憎しみを感じた」
「豪憲君に嫉妬(しっと)などの感情があった」
「自分で生きることに精いっぱいで、とっさに彩香がいなくなればいいと思った」
「(彩香がいなくなった日について)本を読んでいたといううそをついていた」
「(突き落としたことは)絶対思い出したくないという気持ち。それ以上思いだそうとすると頭の中が真っ白になる」
「豪憲君のことを反省しようという気持ちや、自分のしたことをはっきりさせようという思いがあった」
「(彩香ちゃんの)『お母さん助けて』と言った声は思いこみからはみ出してしまい、心に残っている」
鈴香被告は、調書内に書かれ、証拠採用された自分の言葉を無表情なまま、聞き入っていた。
読み上げが終わると、傍聴席に座っていた母親が、証言台に向かうため立ち上がった。