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(12)「バカなこと、したね」目前の娘に語りかけた母

続いて質問を行うのは右陪審の女性裁判官。証言台の前の椅子(いす)で、ハンカチを握りしめながら座る鈴香被告の母親に対し、被告と母親との親子関係、長女、彩香ちゃん=当時(9)=と被告との親子関係を問いただす。

裁判官「鈴香被告が東京に行きたがっていたという話は聞いていたのか?」

証人「聞いていない」

裁判官「この生活を変えたがっているというのは知らなかったのか?」

証人「そうは思っていたけど、東京じゃなくて、ここらへんで(生活を)立て直したいと思っていた」

裁判官「(秋田から)離れたいという発言は?」

証人「聞いたことがない」

裁判官「鈴香被告の、彩香ちゃんへの態度でおかしいと思うところは?」

証人「なかった」

裁判官「一緒に(彩香ちゃんと)お風呂に入らないというのは、理解可能なのか?」

証人「はい」

裁判官は、実際に親子関係が濃密であったかどうかについて疑問を感じているような質問を続けた。

証人は、彩香ちゃん事件を振り返らず、鈴香被告を犯人扱いして「許せない」と言った夫が許せないという。しかし、豪憲君事件についての言及はほとんどなかった。そこに裁判官は疑問を投げかける。

裁判官「少なくとも鈴香被告は豪憲君殺害については認めている。どうしてこういうことが起きたのか考えないのか」

証人「そこまで考えたことがなくて…。鈴香の心のなかに何があったのだろう。家族であっても、娘であっても気持ちが分からなくて、娘の何が原因で、そこ(豪憲君事件)に向かわせてしまったのは分からない」

ここで、藤井裁判長に質問が移る。藤井裁判長は、鈴香被告の悩みを母親が気づいていなかったことに疑問を感じたようだ。

裁判長「こういう事件が起きる前に、娘が抱えていた悩みを、どう認識していたのか。(被告が)彩香ちゃんを育てることについて、あなたで感じていたことは?」

証人「そんなにない」

裁判長「自分に彩香ちゃんが話してくれないということについては?」

証人「彩香は鈴香に心配させまいというところがあるほか、おおらかに考えて、いじめをいじめと思わないところがあった。いじめられた経験がある鈴香は重大に考えていたのだろうけど、彩香は気にしていなかったのでは」

裁判長「鈴香被告は悩みを持っているように見えなかったのか?」

証人「お互い、寄り添っている親子だと思っていた」

鈴香被告と証人の距離はわずか数メートル。藤井裁判長は、いまだ接見禁止が解かれず、娘と言葉を交わすことができない母親に、こう尋ねた。

裁判長「接見禁止が解けたら、被告にどのような声をかけてあげるつもりか?」

証人は、顔を上げながら、一言一言、かみしめるように声を出す。

証人「バカなことしたね、と。たぶん、本当に…」

そういうと、証人は顔を右に傾けた。そこには、目をつぶりながら母の言葉を聞くわが娘の顔があった。証人は、娘の顔を見ながら最後にもう一言、語りかけるようにこう言った。

証人「バカなこと、したね」

手には白いハンカチが固く握られていた。

鈴香被告の目は、母親が視線をそらすまで、開かれることはなかった。

その後、検察側の再質問があり、母親に対する証人尋問は終わった。藤井裁判長から「この後は傍聴しても結構です」と声をかけられ、証人は証言台前の椅子から立ち上がる。

今度は母親を見つめる鈴香被告。しかし、証人は、その視線を避けるように、足早に傍聴席に向かっていった。この後、20分間の休憩をはさんで被告の弟が証言台に向かった。

⇒(13)「子供のころはケンカばかり」