(18)「自殺未遂、ピンとこなかった」
鈴香被告の弟に対する質問が続く。検事は2人の関係を聞き出しながら、感情的になりやすい被告の性格を浮き彫りにしたいようだ。
検察官「平成17年12月6日ごろ、被告と大ゲンカしているが?」
証人「別の人がかかわっているので詳しく言いたくない。姉に私の友人をバカにされた」
検察官「なぜ、被告は友人をバカにしたのか」
証人「…覚えていない」
検察官「言いたくないのかな」
証人「そうです」
検察官「いつもより派手なケンカだった?」
証人「はい」
検察官「それ以来、しばらく被告とうまくいかなかったのか」
証人「いつもより長いケンカだった」
検察官「被告はケンカ後、眠れずに距離をおくことにしたと言っている。実際にそういうことあったのか」
証人「はい」
検察官「被告はケンカの時、怒りやすいか」
証人「そうですね」
検察官「あなたは警察に、被告が感情を抑えられず一方的に話すことがあると言っているが」
証人「ここ何年かはあった」
検察官「最近は前より怒りっぽくなった?」
証人「自分の意見を通したいというか…」
検事の追及は、鈴香被告の自殺未遂時の件に。弟が自殺未遂を深刻に受け止めていなかった実態を引き出し、被告の証言のいい加減さを印象づけたいようだ。
検察官「被告が自殺未遂を図ったとき、なんでそういうことをしたのか聞いたか」
証人「してない」
検察官「どうして?本気で自殺したいと思っていたのか」
証人「聞いたかもしれないが、覚えていない…」
検察側が質問を続けようとすると、藤井裁判長が遮った。
裁判長「もう少し答えたそうにしていますよ」
証人「自殺未遂を父と姉から聞いたが、いまいちピンとこなかった」
検察官「本当に死にそうと思わなかった?」
証人「話を聞いたとき、車を運転していたのは姉だった。具合が悪そうな感じではなかった」
検察官「あまり深刻な話と思わなかった?」
証人「そうですね」
今度は子育てや家事など、鈴香被告の生活面について追及が始まった。
検察官「あなたは彩香ちゃんをお風呂に入れたとき、体がくさいと感じたことはないと言っていたが、彩香ちゃんは体を洗っていないとも言っている。臭くなったとき、あなたや両親が風呂に入れたことは」
証人「それはあった」
検察官「あなたの母親やあなたは弁護人に、『体が臭くなると強制的に入れた』と言っているが」
証人「私自身、においについて思ったことはない。髪の毛が油っぽくなると体も一緒に洗った」
検察官「藤里の自宅の風呂は私も見たが、本当に使っていたと思うか」
弁護人「異議あり。意見を求める質問だ」
裁判長「証人は2〜3週間、藤里にいたことがある。あなたが風呂に入ったとき、汚れは?」
証人「汚れていると思ったが、使えればいいと思った」
検察官「そのとき被告が彩香ちゃんを風呂に入れているのは見たか」
証人「ない」
検察官「彩香ちゃんは1人で風呂に入っていた?」
証人「はい」
鈴香被告は相変わらず口を真一文字に結んだまま。じっくりと考えながら証言する弟に目をやることはなかった。