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(10)「今でも娘を信じている」豪憲君の遺族に謝罪なし

鈴香被告(34)の母親に対する検察側の質問は、さらに続く。検察側は、米山豪憲君=当時(7)=を殺害した鈴香被告の気持ちが分かるとした捜査段階の母親の発言に、ひっかかりを感じているようだ。

検察官「(捜査段階で)検事に被告人の気持ちが分かると言ったのは?」

証人「『鈴香さんの、そういう気持ちが分かるか』といわれて返事をした」

検察官「その気持ちとはどういう気持ちなのか?」

証人「うらやましいとか、ねたましいとか…」

検察官「子供を殺した気持ちが分かる?」

証人「いえ、そういう気持ちがあっただけ」

検察官「捜査段階の(精神鑑定の)鑑定人にも同じような話をしているようだが?」

証人「はい」

話は遺族への償いに移る。証人は、豪憲君の遺族への謝罪をまだ行っていないという。

検察官「遺族への謝罪なぜしていないのか?」

証人「鈴香が逮捕された当初、マスコミが私どもから離れなかった。そういう方々を引き連れて、米山さんのところにうかがうことはできなかった」

検察官「もう、事件から1年半以上も経過した。今日まで行っていないのは?」

証人「いろいろあっていけなかったが、それは本当に申し訳なかった」

検察官「謝罪の手紙も出していないようだが?」

証人「はい」

検察官「なぜ?」

証人「実は、今日も宣誓書に自分の名前を書いたのだが、精神的なものだと思うが、手が震えて字が書けない。ボールペン持つのもできないぐらい震えて…。申し訳ないことだと思うが…」

後ろでは、まさに豪憲君の両親が証人の背中を見つめていた。

さらに、検察側は今度は鈴香被告と彩香ちゃんの母子関係について確認をした。しんみりと、生前の彩香ちゃんについて聞く検察側。証人も、かわいかったという彩香ちゃんを思いだしながら言葉を選んで説明する。手には、ハンカチを握りしめている。

検察官「彩香ちゃん、あなたも夫もかわいがっていたそうだが?」

証人「そうだ」

検察官「あなたから見た彩香ちゃんは」

証人「明るくて、やさしくて…かわいい子でした」

検察官「彩香ちゃんは『お母さん(鈴香被告)にこんなことされた』など、あなたに言ったことは」

証人「『夕べババにもらったお菓子、お母さんが食べちゃったんだよ』と言ったら、鈴香が『私謝ったでしょ』と言ったりしたこととかは」

検察官「ほのぼのした感じか」

証人「そうだ」

検察官「明るくて、元気というのは、生前の写真やビデオでもわかるところ。証人から見てもそうか」

証人「はい…」

とうとう、証人は握りしめていたハンカチを目元にあて、声を震わせた。そこから検察側は、犯人に対する怒りの気持ちを証人に聞き始める。

検察官「あなたは、彩香ちゃんが被告でない誰かに殺されたと思っていたんですよね。正体が分からない犯人にどういう思いを持っていたのか」

証人「犯人にというより、彩香が水の中に何時間もいたのに、水ぶくれやひっかき傷ひとつもない体で川辺に上がったから。みんなが川の捜索をしているのに、どうして誰の目にも止まらずあそこに上がったのかという気持ちだった」

検察官「まさか被告が犯人とは」

証人「一度も思ったことはない」

検察官「殺した相手への憎しみや処罰など、警察にお願いは」

証人「警察にはちゃんと捜索してください、彩香がどうしてあそこに上がったのか捜査してくださいと」

検察官「彩香ちゃんが亡くなったことがそれほどショックだったのか」

証人「はい」

検察官「被告も自分の娘。どんなことがあっても守りたいか」

証人「はい」

検察官「争いはあるが、仮に故意に殺していてもその気持ちに変わりはないか」

証人「そうです」

検察官「被告が彩香ちゃんを故意に殺したかもしれないと考えたことは」

証人「ないです」

検察官「あなたの元夫が被告が故意に殺していたら絶対に許せないと言ったことを、あなたは許せないんですよね。もしかしたら殺したんじゃないと思っているからでは」

証人「違う。どうして娘を信じてやれないのかと思った」

検察官「今でも信じている?」

証人「信じている。ただ、いま鈴香と話もしていません。こうやって会っても、そばにいるのに手をさしのべてやることもできない状態」

検察官「故意で殺したと裁判で認定されたら」

証人「私は鈴香から何一つ聞いていない」

検察官「被告がわざとやっていない、といえば、裁判の結果がどうなろうと被告をどこまでも信じるのか」

証人「そうです」

⇒(11)「鈴香が30年経って出てきたら…」