第6回公判(2010.9.13)
(8)事件当日「新作(MDMA)の上物といわれ、興味が…」被害者の持ち込み強調
合成麻薬MDMAを一緒に飲んで容体が急変した飲食店従業員、田中香織さん=当時(30)=を放置し死亡させたとして、保護責任者遺棄致死など4つの罪に問われた元俳優、押尾学被告(32)は、男性弁護人の質問に答える形で、事件の流れについて説明していく。
弁護人の「メールのやり取りで、MD(M)Aを「アミノ酸」と呼ぼうと言い出したのは誰ですか」との質問に押尾被告は「泉田さんです」と答え、こう続けた。
被告「泉田さんは過去に2回、薬で捕まっているので、『暗号化した方がいい』と言われました」
「泉田さん」とは、麻薬取締法違反(譲渡)罪で実刑判決が確定した泉田勇介受刑者(32)のことだ。押尾被告は今回の裁判で、泉田受刑者からMDMA約10錠を譲り受けたとする譲渡罪にも問われている。
弁護人「なぜ、泉田さんに(MDMAの調達を)頼んだのですか」
被告「(MDMAが)なくなってきたからです」
弁護人「お金は払うつもりでしたか」
被告「はい」
弁護人「あなたからの注文に対し、泉田さんはどのような反応でしたか」
被告「『分かった。聞いてみる』ということでした」
弁護人「(昨年)7月30日午後6時54分に、泉田さんからあなたへ『無理言ったら聞いてくれたので、頼んじゃって平気?』とメールが送られていますね」
被告「はい」
弁護人「代金はいくらだと言われましたか」
被告「35万円です」
弁護人「7月31日午後1時57分に、泉田さんからあなたへ『アミノ酸は10からになっちゃうから』と、メールが来ています。10とは、どういう意味ですか」
被告「10錠ではなく、10グラムです」
押尾被告は初公判で、泉田受刑者から譲り受けたMDMAについて「錠剤ではなく、小さなビニール袋に入った粉末だった」と主張している。
弁護人「10グラムでいくらですか」
被告「35万円です」
弁護人「35万円だというのは、電話で言われましたか」
被告「会ったときです」
弁護人「薬を受け取ったのはいつですか」
被告「7月31日かと思います」
弁護人「受け取った薬はどのようなものでしたか」
被告「小さなビニール袋に入っていて、粉末状でした。濃い茶色と薄い茶色が混ざっていて、砂のようでした」
弁護人「10グラムあるのを確認しましたか」
被告「確認していません。正確にはどのぐらいあったか分かりません」
弁護人「そのとき、お金は払いましたか」
被告「『手持ちがないので、後でいい?』と聞いたら、『いいよ』と言われました」
弁護人「いつまでと言われましたか」
被告「『今度でいいよ』と言われました」
弁護人「結局、泉田さんはお金をもらっていないということですか」
被告「私からはもらっていませんが、私の友人3人から、計60万円を受け取ったと弁護士の先生から聞きました」
弁護人「あなたは受け取った粉末をどこに置きましたか」
被告「キッチンの棚です」
弁護人「ビニールに入ったままですか」
被告「そうです」
男性弁護人は、事件当日の昨年8月2日の流れについても尋ねた。
弁護人「8月2日、泉田さんが(六本木ヒルズに)来たのは何時ごろですか」
被告「午前11時前です」
弁護人「午前10時46分に、あなたから泉田さんにメールを送っています。『カプセル買える?』と。これはどういう意味ですか」
被告「薬を入れるためのカプセルをお願いしました」
六本木のドラッグストアでカプセルを購入した泉田受刑者は、ドラッグストアのビニール袋ごと押尾被告に手渡したという。押尾被告は「(袋ごと)リビングのテーブルに置いたが、(カプセルの)箱は開けなかった」と説明した。弁護人は、核心となる田中さんとのやり取りについても尋ねた。
弁護人「田中さんと8月2日に会う約束というのは、いつごろしましたか」
被告「前日と前々日にお互い連絡を取り合って、2日に来ることになりました」
弁護人「田中さんが部屋に来たのは?」
被告「(午後)2時半ごろです」
弁護人「その前の2時14分に、あなたから田中さんに『来たら、すぐいる?』というメールをしています。これに対して、田中さんからはどのような返事が来ましたか」
被告「『いるっ』と返事が来ました」
弁護人「これは、どういう意味で送ったのでしょうか」
被告「来たらすぐ、オレのことほしいか。オレのこといるだろう。そういう言葉の遊びというか、プレーです」
弁護人「『おれの体がいるか』という意味ですね」
被告「はい」
検察側はこのメールについて「MDMAがいるか」という意味だと指摘していた。
弁護人「お互い薬を持っているという前提だから、(違法薬物が必要かを)確認する必要がないということですね」
被告「はい」
ここで弁護人が、「ところであなたは、ものを考えるとき、英語と日本語、どちらで考えますか」と尋ねた。被告は「英語です。初めて会話を覚えたのは英語なので、英語の方が得意です」と答えた。
弁護人「『おれの体がいるか』というのを英語で言ってみてください」
被告「Do you want me right away?」
軽やかに英語を話す押尾被告。あまりに流暢(りゅうちょう)な発音のため、弁護人が一語ずつ区切って繰り返し、確認した。
弁護人「どういう意味ですか」
被告「すぐいるか、すぐほしいか、おれのことを」
弁護人「『(違法薬物を)来たらすぐいるか』というのを英語で言うと?」
被告「Do you want a drug when you arrive.もしくはDo you want a drug right awayとかです」
弁護人は再び、ゆっくりと英文を繰り返して確認した。
弁護人「田中さんが来たら、すぐセックスするつもりだったのですか」
被告「はい」
弁護人「田中さんもそのつもりでしたか」
被告「はい」
弁護人「セックスすることをお互い分かっていたのに、なぜこういうメールを送ったのですか」
被告「なんだか久しぶりというのと、お互いそういう言葉の遊びが好きというのと、会う前に興奮するというのがありました」
弁護人「その前に2回、田中さんと電話をしていますが、どのような話をしたのですか」
被告「田中さんが『マー君、新作の上物があるから、楽しみにしててね。今日は私の使おうね。もうすぐ着くから楽しみにしててね』と言われました」
弁護人「どういう意味だと思いましたか」
被告「新しく質のいいMDMAを持ってきたと思いました」
弁護人「部屋に着いた田中さんはどんな様子でしたか」
被告「テンションが高い状態で、『あらマー君、久しぶり』って抱きついてきて、イチャイチャしました」
弁護人「どう思いましたか」
被告「すでにいい感じで、薬が効いてんだな、えらいご機嫌だな、と思いました」
弁護人「前もそういうことがあったんですか」
被告「はい」
押尾被告は「その後はDVDを見て雑談をした後、それぞれシャワーを浴びた」と、淡々と説明した。
弁護人「違法薬物は誰が持ってきたのですか」
被告「今回は、田中さんの新作を飲みました。新作の上物といわれ、僕も興味がありました。僕が持っていたのは泉田さんからもらったもので、田中さんとも使ったことがあったので…」
弁護人「錠剤でしたか」
被告「三角の錠剤です」
弁護人「何錠くらいありましたか」
被告「数は分かりませんが、20錠くらいです」
弁護人「大きさは?」
被告「0・5〜1センチの間です。バツのマークがついていました」
弁護人「色は?」
被告「ダークブラウンです」
押尾被告は、「田中さんが持ってきた」と主張するMDMAの形状についてよどみなく答えていった。
弁護人「田中さんはどんなものに錠剤を入れていましたか」
被告「ジップロックです」
ここで、山口裕之裁判長が休憩をとることを告げた。約1時間15分の休憩をはさみ、午後1時半から再び被告人質問が行われる。