第6回公判(2010.9.13)
(16)いま一番会いたい人を問われ 「息子です」と小声でポツリ
合成麻薬MDMAを一緒に飲んで容体が急変した飲食店従業員、田中香織さん=当時(30)=を放置し死亡させたとして、保護責任者遺棄致死など4つの罪に問われた元俳優、押尾学被告(32)の裁判員裁判の第6回公判が行われている。
30分間の休廷の後、うつむき加減で押尾被告が入廷。証言台に座ると男性検察官による質問が再開した。
検察官「一点だけ。先ほど、○○さん(法廷では実名)の調書をあなたがどう認識しているかです。調書にはあなたが最初に○○さんに電話をしたときから『死んだ』ということを聞いたとの記載がありましたか。調書を読みましたか」
○○さんとは、事件現場で119番通報した人物だ。
被告「はい」
検察官「1回目の電話であなたが『死んだ』と言ったとする調書の記載はどこにもありませんが、説明してもらえますか」
被告「いっぱい調書を見ました。その中で○○さんの調書があって、そういうことが書いてました。私の記憶ではあります」
調書の記載内容について検察官と被告で認識の食い違いがあるようだ。
検察側の尋問が終わり、山口裕之裁判長が裁判員に質問があるかどうか尋ねる。向かって左から2番目の男性裁判員が発言を始めた。
裁判員「以前、アメリカへ行ったとき、薬物を買ったということですが、泉田さんから粉末のMDMAを受け取ったときの大きさはどれくらいでしたか」
被告「こんくらいっす。小さなビニール袋くらいです」
押尾被告は両手の親指と人さし指で長方形をつくり、裁判員に示した。山口裁判長がさらに確認した。
裁判長「だいたい縦7〜8センチ、横5センチくらいかな?」
被告「はい。そうです」
裁判員「1錠10ドルのものが、その袋に入って35万円というのは高くなかったですか」
被告「そう思いました。高いっす」
押尾被告は再び口調をくだけさせた。
裁判員「なんで35万円?『ふざけるな』みたいなことはなかったですか」
被告「まあ、それはなかったです」
裁判員「田中さんが亡くなったとき、つばがたまって亡くなったのですか」
被告「いや、つばがたまって、『プッ、プッ』とやりながら亡くなったんですよ。『プッ、プッ』ってやりながらです」
押尾被告が、苦しむ田中さんの様子を映画の役柄を演じるように音を立てながら説明する。
裁判員「肺水腫で泡が流れ出たのはいつですか」
被告「だいぶんたってからです」
裁判員「心臓マッサージをして、電話とかかけている間に泡は出ましたか」
被告「もう少し後です。正確な時間は分かんないですけど、泉田さんが来たころですかね」
泉田さんとは押尾被告にMDMAを譲り渡したとして実刑が確定した泉田勇介受刑者(32)だ。
裁判員「田中さんの携帯電話は確認しましたか」
被告「まったくしてないっす」
裁判員「△△さん(法廷では実名)に確認をお願いしたことはありますか」
△△さんとは押尾被告の元マネジャーだ。
被告「まったくしてません。警察にも『お前がメールを消したんだろう』とか言われましたが、もしそうなら私の携帯のやり取りも消します。唯一メールを消したのはBさんとのやり取りです」
Bさんは押尾被告の知人の元国会議員で、事件直後に押尾被告が電話をかけている。
裁判員「△△さんがメールを消したのですか」
被告「誰がやったかは分かんないです」
続いて向かって左から3番目の男性裁判員が質問する。
裁判員「MDMAを初めて使用して、気分が悪くなったり、中毒になったりした経験はありますか」
被告「まったく逆っすね。気持ち悪いとかじゃなくて気持ちいいとか楽しいとかです」
裁判員の質問に対してもくだけた口調を改めようとしない。
裁判員「泉田さんとは事件まで半年くらいの付き合いですが、泉田さんはお金に困っていたのですか。半年の付き合いで何百万円も貸していたのですか」
被告「お母さんが入院してお金がいるって聞いて『マジで』って感じになって、でも何百万円とかは用意できないから、私が友人からお金を借りたりして貸したんですよ。あとで知ったのは、ただの借金を返すために私からお金を借りたということでしたけど…」
裁判員「どうして半年のつきあいでそれだけのお金を貸したのですか」
被告「私のことを『兄弟、兄弟』って呼んでくれてました。そうやって寄ってくると『何とかするよ』ってなるんで、お母さんも困ってるんでということになりました」
裁判員「兄弟とは?」
被告「同い年ですけど、どっちが上とかはないんですけど、『ユースケ』、『マナブ』って呼び合うこともありました」
押尾被告はリラックスした様子で質問に答えていく。
裁判員「宗教上のことですが、薬物を服用することは許されるのですか」
被告「許されないっすね」
押尾被告は自らが「キリスト教徒だ」と証言している。
裁判員「コカインをやらない理由は何ですか」
被告「コカインは死につながるってイメージがあって、MDMAで人が亡くなるという認識はなかったんです。MDMAは軽い気持ちで使用していました。クラブとか行くとドンチャン騒ぎして、『会話、楽しくなる』って感じでした」
裁判員「あなたが今一番会いたい人は誰ですか」
被告「息子です」
小さめの声で質問に答えた押尾被告。次に向かって右から3番目の女性裁判員が質問を始めた。
裁判員「(事件当日は)翌日に仕事を控えていたのに5錠飲んだのですか。仕事に支障はなかったのですか」
被告「はい」
続いて向かって右から2番目の男性裁判員が質問を始めた。
裁判員「クスリを飲んでから正常に戻るにはどれくらいかかりますか」
被告「個人差はありますが何日かかかります」
裁判員「当時だと8月3日とか4日くらいですか」
被告「はい」