第6回公判(2010.9.13)
(3)ドラッグセックス後、元妻の矢田亜希子さんに平然とメール 検察が指摘

飲食店従業員、田中香織さん=当時(30)=に対する保護責任者遺棄致死などの罪に問われている元俳優、押尾学被告(32)の裁判員裁判第6回公判が続く。弁護側請求の福岡和白病院の救命救急医が出廷、救命の可能性について証言をしていく。
弁護側は「田中さんは急死で、救急車を呼んでも救命可能性は低かった」と主張している。
検察官「医学的には『急死』って使わないんですよね」
証人「法医学では使います。突然の死亡ということで経過が短いことです」
検察官「経過が短いというのはどれくらいですか」
証人「30分から1時間ですね」
検察官「今回、田中さんは高度な肺水腫を発症しています。どの程度の時間が経過したと思いますか」
証人「これは実際的には難しいかと思います。肺水腫は単一の原因では起こりません。亡くなった後の所見を見て(経過が)数分だったか、30分だったのかは解剖所見だけでは分かりません」
検察官「臨床の現場で、あれだけの肺水腫はどのくらいで起こりますか」
証人「1、2分で起こることもあります」
検察官「(1、2分で起こるのは)かなり特異な例だと感じますが」
証人「MDMAではないですが、ある種の薬剤で起こることはあります」
押尾被告は、証人を見ずに、手にとった資料に目を落としている。
検察官が、検察官請求の証拠、田中さんの死体写真を示したが、法廷内の大型モニターには映されない。
検察官「これは、警察官が現場で撮影した写真です。口から気泡が出ています。死亡後にこういう状態になることはありますか」
証人「心臓マッサージは胸を押すので、呼吸と同じ動きをします。押尾さんの心臓マッサージによって、泡が出たのかは分かりません」
検察官「倒れた後に心臓マッサージをしたという主張ですから、先生のお話を前提にすると、心停止した後に心臓マッサージで泡が出たということになりますか」
証人「その可能性が高いです。ただ、先に重症の肺水腫が発症していた可能性もあります」
検察官「口から泡を吹いている人に、人工呼吸をしますか」
証人「する方によるでしょうね。肺水腫の泡は次々に出てくるので」
押尾被告は、容体急変後、心臓マッサージや人工呼吸をしたと主張している。
検察官は、田中さんのMDMAの血中濃度の高さは致死量だったという証人の主張を指摘し、質問を続けた。
検察官「放置された結果、この濃度になっているわけで、ある程度、吸収は続いているわけです。生きている間はこの濃度になっているわけではないんですね?」
証人「MDMAは、ほかの薬物も同じように胃の粘膜から取り込まれて血液に流れていきます」
検察官「それを前提にお聞きしているのですが、逆にいうと、その濃度になっていたらほとんど死んでいるということですよね。この濃度になる前の救命可能性についてお聞きしたい。追い打ち、二度飲みで血中濃度が、がつんと上がるというのは、聞いてますよね。(田中さんの)錯乱が始まった時点では、血中濃度はここまでいたっていないんですよね」
二度飲みとは薬物を何度も服用することを指すようだ。
証人「少なくとも最高濃度ではないですね」
検察官「(昨年8月2日)午後5時12分の時点では、(押尾被告は)奥さんとメールのやり取りをしているくらいなので、田中さんの容体は客観的に悪化していなかった。5時12分以前にMDMAを服用していた場合、錯乱状態が起きたのは?」
この5時12分には、田中さんがMDMAを服用し、ドラッグセックスに及び、すでにしばらく時間が経過している。少なくともこのころには異変がみられなかった。
証人「非常に難しいですが、MDMAで言われていますのが、血中濃度と錯乱状態は相関しないといわれています。今のご質問に対する客観的な答えはできかねます」
専門的な話が続き、裁判員は首をかしげたり、資料をめくったりしている。
検察官「服用した血中濃度と錯乱した経過時間はあまり関係ないと言いましたね?」
証人「はい」
検察官「死亡した時期の血中濃度を見て、経過時間をみるのも難しい、そういうことですか」
証人「そうですね」
検察官「先生が示した、錯乱状態のときに、通報するのは無理ですか」
証人「一般市民が、目の前で人が暴れていたら通報するでしょうが、違法薬物を使う人はなんらかの通常でないトリップを求めているのですから」
検察官「通常、一般人になら(通報は)期待できますか」
証人「一般人なら通報は期待できるかもしれません」
検察官「119番期待できない人は? MDMAを使っている人だとトリップという段階で、それ(通報)を期待するのがおかしいということですか? その人間が、その後、あちこちに電話していたらどうですか」
証人「今回、私がここへ呼ばれた趣旨と違うのでお答えしません」
検察側の冒頭陳述によると、田中さんの容体急変後、押尾被告は知人に携帯電話で電話をしている。
押尾被告は、あごの下を右手で触りながら、資料に目を落としたままだ。