第6回公判(2010.9.13)

 

(10)「『119番通報しろ』とは言われなかった」…知人の元国会議員の証言を真っ向否定

押尾被告

 保護責任者遺棄致死などの罪に問われた元俳優、押尾学被告(32)は弁護人の質問に対し、よどみなくはっきりとした声で答えていく。被告人質問に向けて弁護人と十分に準備をしていたようだ。

 合成麻薬MDMAを服用して死亡した飲食店従業員、田中香織さん=当時(30)=の体調に異変が起きた後、押尾被告がどのような処置をしたのかを弁護人が詳細に尋ねていく。

弁護人「(人工呼吸に続いて)心臓マッサージをしたということですが、どのようにやったのですか」

被告「手をずらしていって、骨が分かれる部分を手をクロスしながら、『1、2、3、4。1、2、3、4…』って8回押しました」

弁護人「どこを押しましたか」

被告「骨が分かれるみぞおちの辺り」

 押尾被告は身ぶり手ぶりを交え、自分のみぞおち部分を指し示しながら説明をする。

弁護人「ぐっと押す感じでやりましたか」

被告「はい」

弁護人「人工呼吸で2回息を吹き込み、みぞおちを8回マッサージするのを1セットとして、何セットしたのですか」

被告「10セット以上はやりました」

弁護人「時間にしてどれくらいですか」

被告「10分くらいはやりました」

弁護人「効果はありましたか」

被告「一瞬、田中さんが『ぐほっ』といったので、一瞬だけほっとしましたが結局はだめでした」

弁護人「生き返らなかったということですか」

被告「はい」

 すでに手遅れだったことを強調するため、あえて「生き返った」という表現を使っているようだ。

弁護人「倒れた直後に救急車を呼ぶことは考えなかったのですか」

被告「必死だったので、『人工呼吸や心臓マッサージが何よりも優先』と思いました」

弁護人「だめだと思ってから119番通報することは考えませんでしたか」

被告「(人工呼吸と心臓マッサージのセットを)何十回も繰り返してだめだったので、頭が真っ白になり呆然としていたので(考えられませんでした)」

弁護人「その後、どうしましたか」

被告「服を着て、携帯電話を取りに行き、(知人の)Aさんに電話しました」

弁護人「Aさんとはどんな関係ですか」

被告「仲の良い友人です」

弁護人「どうしてかけたのですか」

被告「頼りがいがあったので、とっさに…」

弁護人「Aさんは電話に出ず、留守番電話だったと思いますが、その前に泉田さんに電話をかけていますが何故ですか」

 泉田さんとは、押尾被告にMDMAを譲渡した麻薬取締法違反の有罪が確定した泉田勇介受刑者のことだ。

被告「泉田さんからは『クスリのことで何かあったら、おれに連絡してください』と言われていたので電話しました。けど、そのときは電話に出ませんでした」

弁護人「18時35分にAさんと電話をしていますが、どんなことを話しましたか」

被告「『一緒に女の子とクスリをやっていたら急に倒れて死んだ。人工呼吸とか心臓マッサージとか何をしても生き返らない』と話しました」

 その後、弁護人は押尾被告が当時、電話をかけた元マネジャーの△△さんや119番通報した○○さんらとどのようなやり取りをしたのか、どうして連絡を取ったのかなどを順番に質問していく。

 押尾被告はAさんに告げたことと同じ内容を繰り返し回答した。すでに手遅れの状態だったことについて、複数の知り合いに告げていたことを強調するためとみられる。

 最後に弁護人は押尾被告が当時、電話をかけた知人の元国会議員のBさんに連絡した際のことを質問した。Bさんは前回までの公判に証人として出廷した。

弁護人「Bさんからは何と言われましたか」

被告「『ばかやろう。もう一回蘇生(そせい)処置をしろ』と言われました」

弁護人「『119番通報しろ』とは言われませんでしたか」

被告「そのときは言われていません」

 元国会議員は法廷で『119番通報しろと伝えた』と証言しており、押尾被告の回答と矛盾する形だ。

弁護人「そのときの田中さんの状態はどうなっていましたか」

被告「唇の色が変わっており、体が硬くなっていました」

弁護人「それ以外に特に変化はありましたか」

被告「それぐらいしか違っていませんでした」

 ここで弁護人は逮捕後の取り調べ状況に関する質問を始めた。

弁護人「3日に出頭して逮捕されたのは何時くらいでしたか」

被告「夜です」

弁護人「逮捕されたとき体の状態はどうでしたか」

被告「まだクスリが残っている状態でした」

弁護人「記憶はどうでしたか」

被告「記憶はあいまいでした」

 押尾被告は終始、一切、言いよどむこともなく前方を見据え弁護人の質問に応じた。

⇒(11)「世論がうるさいから、起訴せざるをえない」 映画のセリフのように取り調べ再現