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第6回公判(2010.9.13)

 

(1)細かい文字で埋め尽くされたノート 被告人質問迎えた心中は…

押尾被告

 合成麻薬MDMAを一緒に飲んで容体が急変した飲食店従業員、田中香織さん=当時(30)=を放置し死亡させたとして、保護責任者遺棄致死など4つの罪に問われた元俳優、押尾学被告(32)の裁判員裁判の第6回公判が13日、東京地裁(山口裕之裁判長)で始まった。被告人質問が行われる予定だ。田中さんの容体が急変してから死亡するまでの“密室”の時間について押尾被告本人の口から語られることになる。

 押尾被告は初公判で、「田中さんにMDMAを渡していないし、放置していない」として、保護責任者遺棄致死罪とMDMAの譲渡については無罪を主張。また、田中さんの異変に接しながらも、「119番通報することは思いつかなかった」とも述べた。

 検察側は冒頭陳述で、「田中さんの急変から死亡までは約1時間あり、押尾被告が直ちに119番通報していたら救命することができた」と指摘。これに対し、弁護側は「田中さんは急死で、救急車を呼んでも救命可能性は低かった」と反論している。この核心の数十分から1時間について押尾被告は何を証言する のだろうか。

 被告人質問に先立ち、弁護側証人の専門医が法廷で証言する。これまでの5回の公判には、検察、弁護側合わせて18人の証人が出廷。検察側証人である救命救急の専門医は、田中さんの救命可能性について「田中さんは若く、病院へ搬送後も百パーセント近く、9割方助けられたと思う」との見解を示していた。今回の専門医は別の角度から田中さんの救命が可能だったか検証する見通しだ。

 法廷はこれまでに引き続いて東京地裁最大の104号。午前9時57分、山口裁判長の指示で押尾被告が軽く一礼して向かって左側の扉から入ってきた。長身に長い髪。前回までと同じ黒いスーツに白のシャツ、青いネクタイ姿だ。弁護人の隣に座ると、じっと下を向いている。

 裁判員6人が入廷すると、押尾被告はテーブルの上のノートをパラパラとめくりだした。ノートはこれまでに押尾被告が書き留めてきた細かい文字でびっしり埋められている。

裁判長「それでは開廷します」

 9時59分、山口裁判長が開廷を告げた。証人の中年男性が右側の扉から入廷する。細身で白髪混じりの髪にめがねをかけ、黒いスーツ姿だ。山口裁判長にうながされて宣誓を行う。法廷に響くはっきりした声だ。

 男性は「失礼します」と述べると、証言台の席に着いた。若い女性弁護人が質問に立った。

弁護人「ご経歴の説明をお願いします」

 男性証人の説明によると、証人は佐賀医科大(現・佐賀大医学部)などをへて現在は、福岡市の池友会福岡和白病院で救急救命の責任者を務めているという。

弁護人「学会でも活動されていますね。お立場は?」

証人「主なものは、日本救急医学会の指導医をしているほか、日本中毒学会の評議員をしております」

弁護人「違法薬物の中毒患者にもかなりたくさん接していらっしゃったと思いますが、MDMA中毒患者は?」

証人「MDMA中毒はないが、学会で資料を読みます。覚醒(かくせい)剤中毒には何度か接しました」

弁護人「田中さんの死亡については鑑定書や医師の調書はお読みになられてご存じですね」

証人「はい。読ませていただいています」

弁護人「死亡の原因は何だとお考えですか」

証人「MDMAが原因ですが、服用によるセロトニン症候群ではないかと考えます」

 証人の説明では、セロトニンとは、ホルモンに近い情報を伝達する体内物質の一つで、気分の高揚に関係する。MDMAの少量の摂取なら、幸せを感じる「多幸感」や人への親密感を与えるという。

証人「人に親密な感情を感じるため、セックスに快感があるともされています」

 MDMAを大量摂取すると、ほぼ全例でセロトニン症候群を発症。同症候群を発症する原因には抗鬱(うつ)剤の摂取も挙げられ、厚生労働省が大量摂取に対して注意を喚起している。

弁護人「セロトニン症候群の症状は?」

証人「軽度ならボーっとした感じになり、量が多くなると、錯乱や意識を失い、昏睡(こんすい)状態になることもあります」

 具体的には、体温の上昇をもたらすほか、意識せずに筋肉が震え、痙攣(けいれん)する「不随運動」を起こすとされるとも。

証人「特に体温の上昇が命にかかわることもあります」

 証人の医師は早口に一気に説明する。裁判員らは専門の医療用語を聞き逃さないように一様に真剣な表情で聞き入っている。押尾被告は目をつむったような感じでうつむきがちに証言に耳を傾けている。

 ここで検察側が「弁護側は事前に争いのないはずの死因とは別のセロトニン症候群という死因を立証しようとしている」と異議を申し立てた。弁護側が「MDMA中毒という死因を否定しているわけではない」と弁明し、山口裁判長は質問を続けることを許可した。

弁護人「MDMA中毒とセロトニン症候群の関係が分かりにくいので、説明をお願いできますか」

証人「MDMA中毒とセロトニン症候群はまったく同じことで、MDMA中毒のほぼすべてでセロトニン症候群が起きます」

「MDMAの少量の摂取だと、多幸感や親愛感情につながり、多いと不整脈や死につながることもありますが、どこまでがMDMA中毒で、どこからがセロトニン症候群か線引きは難しい」

弁護人「田中さんの死因では?」

証人「MDMA中毒ともいえ、その本体はセロトニン症候群といえます」

弁護人「そういえる客観的根拠は?」

証人「田中さんのMDMAの血中濃度が8〜13と非常に高いことです。ほとんどの中毒では濃度が1〜2なのに、田中さんは低いところでも8ありました」

「田中さんの死亡後の体温が37度。生存時はもっと高体温とみられ、これからもセロトニン症候群の重症のものといええるでしょう」

弁護人「生存時は40度を超えていたと考えられますか」

証人「40度以上の可能性は十分あるでしょう」

 ここで、前回までの公判で検察側が示していた田中さんのMDMA中毒発症から心停止までの経緯をまとめた資料を提示することを弁護側が求め、法廷に設置された大型モニターに資料が映し出される。

弁護人「この中でセロトニン症候群に合致しているものは?」

証人「みけんにしわを寄せてハングルのような言葉でブツブツ文句を言う。これは錯乱状態」

「腕を肩の高さまで両手を動かす。これは痙攣状態で、(セロトニン症候群に)当たります」

弁護人「いまから読み上げる部分はセロトニン症候群と言えますか。『ブツブツ文句を言い出したけど、話しかけると普通に会話ができる。数分後、突然、歯をむき出して倒れた…』」

証人「これはセロトニン症候群でもあり得るでしょう」

 裁判員らは真剣な表情で自分たちの席に設置されたモニターに映し出された資料をみつめる。押尾被告は資料に目をくれることもなく、目を閉じてうつむいている。

⇒(2)弁護側の医師「救命可能性はきわめて低い」検察側証人と真逆の見解