第6回公判(2010.9.13)

 

(5)「長期的でも、3、4割しか助からない」医師は低い救命率を提示

押尾被告

 弁護側が申請した、福岡和白病院(福岡市東区)の救急救命の責任者の男性医師に対する山口裕之裁判長の質問が続いている。保護責任者遺棄致死などの罪に問われた元俳優、押尾学被告(32)と合成麻薬MDMAを服用して容体が急変して死亡した、飲食店従業員、田中香織さん=(30)=の救命可能性や死亡の経緯について質問していく。

 これまでと同様に黒色のスーツを着た押尾被告は、資料を両手で持って読んでおり、証人の男性医師には目を向けていない。男性医師は、早口で質問に答えていった。

裁判長「死に至るメカニズムを説明してくれましたが、田中さんが死亡した際の(MDMAの)血中濃度が、あれ以上に高くなると死亡するということでしょうか」

証人「あの現場で死に至るのは、不整脈や高血圧とか肺水腫で呼吸が止まる場合です。またその後に死ぬ場合は、これらの症状を切り抜けても、高体温で脳や心臓がダメージを受けて多臓器不全になる可能性が高いです。田中さんは短期的でも厳しいですが、長期的でも、3、4割しか助からず、病院に行っても5、6割は厳しかったと思われます」

裁判長「急性という部分では、(MDMAの)量が増えると交感神経の興奮が高まるということですか」

証人「低いより高い方が高まるのは確かです」

裁判長「致死という部分にこだわりますが、(交感神経の興奮が高まり)頻脈になると助からないということですか」

証人「現場であれば、AED(電気ショックを心臓に与える機器)がなく、助かるのは困難です。病院なら助かる可能性もあります。高い濃度で早い脈や心停止、高血圧が出れば治療のしようがないので、どこの段階で救命できないと判断するのかで、救命の可能性があるかは変わると思います」

裁判長「血中濃度が高濃度だと死亡するということですか」

証人「薬剤によって違いますが、シアン中毒は解毒剤もあり、睡眠薬は血液透析で治ります。MDMAは解毒剤もないですし、血液透析でも下げられません」

 血液透析とは、汚染された血液を機械を通して濾過(ろか)する治療法。MDMAは血液透析などの治療の効果があまりないことを、証人の男性医師は説明していく。

裁判長「血液透析でMDMAの濃度は下げられないのですか」

証人「血液内からはとれても、体にしみこんだものはとれません。MDMAは血液から体内にすぐにとけ込んでしまうので、体内にとけ込んだものはとれないのです」

裁判長「ごらんになった鑑定書の血中濃度は、(田中さんが)死亡したときのもので、救急隊が死亡前に田中さんに接触したときに、濃度が上がらないようにできたのでしょうか」

証人「ありえません。治療方法がないので。早く病院に運んでも下げられないので、早かったか遅かったかは関係ないのです」

裁判長「救急隊が血中に酸素を入れても、MDMA濃度が高くなるのは止まらないということですか」

証人「おっしゃるとおりです」

 検察側の申請した救急救命の専門医師らは、早く119番通報していれば「十中八九、助かった」などと話したが、弁護側が申請した医師は、これに真っ向から対立する意見を述べた格好だ。裁判長からの質問は終了した。

 山口裁判長は医師に証人尋問が終了したことを告げかけたところで、検察側が追加質問を山口裁判長に求めた。

検察官「2点だけうかがいます。先ほど、肺に水がしみ出して口から泡が出るのは1、2分ということでしたが、この1、2分というのは厳密な意味でしょうか」

証人「1、2分というのは比較的早い時間という意味です」

検察官「泡をたくさん吹く肺水腫は1、2分で完成することもあるのですか」

証人「肺に血液がたまるのは1、2分なので、可能性は低いですが、1、2分で口から泡が出ることもありえます」

検察官「MDMAを飲んでも百パーセント助かるということについて、おかしいと言いたかったということですが、あなたは検察官からの申請は断られましたよね」

証人「私には判断しかねると言いました。なぜなら、交通事故などで警察や検察などから電話があった場合、関係のところに自分で電話をかけて確認します。今回検察官から電話をもらって、質問を受けて、うそではないと思いましたが、弁護側からは実際に直接会って質問を受けました」

 押尾被告は証人を見ることもなく、終始、資料に視線を落としていた。

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