第2回公判(2010.9.6)

 

(4)「ヤクザです」と次々実名 被害女性と暴力団との関係強調する弁護人

押尾被告

 合成麻薬MDMAを飲んで容体が急変した飲食店従業員、田中香織さん=当時(30)=の知人男性への弁護人からの質問が続く。弁護人は証人を攻めるようにきつい口調で質問を続ける。元俳優、押尾学被告(32)は厳しい表情で証人を見つめた。

弁護人「◇◇(法廷では実名)という男性を知っていますか」

証人「はい」

弁護人「どういう人物ですか」

証人「暴力団です」

弁護人「正確に言ってください」

証人「稲川会の組長です」

弁護人「下部組織のですか」

証人「八王子一家です」

弁護人「総長は知ってますか」

証人「◎◎(法廷では実名)です」

弁護人「面識はありますか」

証人「あります」

 田中さんと暴力団の関係を強調する質問を続ける弁護人。

弁護人「田中さんと◇◇は男女関係にあったことを知っていますか」

証人「ないと思います」

弁護人「2人が知り合ったきっかけを知っていますか」

証人「ホステスと客の関係です」

弁護人「どこのクラブですか」

証人「新宿です」

弁護人「田中さんには『パパリン』という人物がいたことを知っていますか」

証人「はい」

弁護人「何をしている人ですか」

証人「そういうお仕事をしている人です」

弁護人「そういうってどんな仕事ですか。具体的に言ってください」

 弁護人の口調がよりきつくなる。

証人「反社会的なお仕事です」

弁護人「どんなことをやっている人か田中さんから明確に聞いたことがありますか」

証人「はい」

弁護人「どこの組織の人ですか」

証人「(指定暴力団の)山口組と聞いています」

弁護人「田中さんは(指定暴力団)住吉会系の■■さん(法廷では実名)とも男女関係があり、30万円をもらったと聞いたことがありますか」

証人「ないです」

 田中さんの暴力団との関係をよりいっそう強調する弁護人。押尾被告も証人を見つめたまま。

弁護人「田中さんは結婚歴は何度ありますか」

証人「1度です」

弁護人「1度ですか。何歳の時に結婚したか知っていますか」

証人「10代です」

弁護人「その相手の男性の職業は」

証人「それは…」

弁護人「その方の職業は何ですか」

 証人の言葉を遮るように質問を強調する弁護人。

証人「ヤクザです」

弁護人「田中さんがなぜ上京したか聞いていますか」

 突然、質問を変える弁護人。

証人「生活を一新したかったからだと思います」

弁護人「なぜ一新したかったと思いますか」

証人「まっとうに生きたいと思ったからだと思います。心新たに」

 ヒートアップする弁護人に対し、裁判長が質問がいつまで続くか聞いた。弁護人は「2、3問で終わる」と返答。

弁護人「田中さんが入れ墨を入れているのを知っていますか」

証人「はい」

弁護人「いつごろ入れたか知っていますか」

証人「10代のころだと思います」

弁護人「なぜ入れたか知っていますか」

証人「聞いていません」

弁護人「見たことはありますか」

証人「ありません」

弁護人「あなたの話を総合すると田中さんの周辺には複数の暴力団が存在することが明らかですね」

証人「はい」

弁護人「質問を終わります」

 終始、田中さんと暴力団との関係を強調し続けた弁護人。これは田中さんにもMDMAを入手することが可能だったことを印象づけたいためとみられる。押尾被告もじっと証人を見続けた。

 ここで女性検察官が再度、尋問を行う。

検察官「平成20年末に田中さんが被告との関係について『食っちゃった』と言っていましたね。そのときは付き合っていると言いましたか」

証人「言っていないです」

検察官「その後21年7月24日から25日にかけて、田中さんは変なのと付き合いがあると言っていたときには『付き合い』という言葉を使っていましたか」

証人「はい」

検察官「どういう意味だと思いますか」

証人「ふつうに恋愛しているようなそういう認識はなかった」

検察官「え〜…」

 突然、しどろもどろになる女性検察官。男性検察官が変わって質問を行う。

検察官「質問を整理しますと、平成20年12月の1回限りの肉体関係があり、その後、21年7月24日から25日にかけて継続的な肉体関係があったかということなのですか」

証人「はい」

検察官「田中さんから付き合っている人といつからかは聞いていませんか」

証人「はい」

 ここで検察官からの証人尋問が終わる。裁判長が裁判員に質問がないか促すと、向かって左から2番目の裁判員の男性が手を挙げ、質問を行う。

裁判員「証人の方にお伺いしたいのですが、田中さんといういう人は複数の方と肉体関係を持つような方ですか。それともいちずな方ですか」

証人「年が明けてから(田中さんは)女性の方と暮らし始めました。『なかなか不幸な子なんだ。それで私の家に住ませている。その子が妊娠していて、私がお父さん代わりになるんだ』と話していました。それから彼女は何かにせかされているように仕事をして、働きづめでした。子供を養っていかないといけないという決意の表れだったのかと思います」

 ここで、田中さんの知人男性への証人尋問が終わる。

 続いて、押尾被告と薬物を使って肉体関係を持ったことのある女性に対する証人尋問が始まる。証人が被告や傍聴人に姿を見られたくないと要望したため、別室からマイクを通して行う「ビデオリンク方式」が採用され、職員がその準備に取りかかる。

 押尾被告は弁護人の方を向いてしきりに話しかける。弁護人は少し笑ったような表情で押尾被告に何かを話しかけていた。

 準備のため、いったん、裁判員と押尾被告が法廷を後にした。

⇒(5)「愛が深まる」「“ハイ”になる」勧められてクスリを飲んだ女性が証言