第2回公判(2010.9.6)
(14)「情があったが言いたいことはない」 裁判員の質問に元マネジャーが決別宣言
飲食店従業員、田中香織さん=当時(30)=の様態が急変し死亡した直後の状況について、元俳優、押尾学被告(32)の元マネジャー、△△(法廷では実名)氏=証拠隠滅罪で略式起訴、罰金刑=に対する検察官の尋問が続く。
△△氏は検察官の質問に対し、はっきりとした口調でよどみなく答えていく。
検察官「部屋に入ったとき、ビニールに入った錠剤を見かけましたか」
証人「記憶にありません」
検察官「あなたが持ち出したのは携帯電話だけですか」
証人「はい」
検察官「被告は4201号室に移るときにどんな荷物を持っていましたか」
証人「押尾さんがよく持っている黒い皮のショルダーバッグです」
検察官「自分のものを入れていったのですか」
証人「見ていません」
検察官「田中さんの容体について被告からどんな説明を受けましたか」
証人「人工呼吸とか救命措置をしたと」
△△氏が廊下に出ようとしたときに救急隊と出くわしたという話で検察官の尋問が終わる。続いて男性弁護人の質問が始まる。
弁護人は△△氏が押尾被告にサプリメントのボトルを渡す経緯について細かく質問する。
△△氏は上司にあたる元チーフマネジャーの□□(法廷では実名)氏からボトルを受け取って千葉・成田にいる押尾被告に渡しに行ったが、渡すのを忘れたという。
弁護人「□□氏から何か言われましたか」
証人「□□にメールでサプリ忘れていないかと言われ、その日のうちに持って行ってほしいと言われ、持って行きました」
弁護人「押尾さんに渡しましたか」
証人「押尾さんにはもう寝るからポストに入れてほしいと言われましたが、ボトルがポストに入らなかったので、押尾さんから明日でいいと言われました」
弁護人はボトルの詳細について質問を続ける。△△氏は「見た目が劇薬のようだった」と証言。ボトルの開封については気づかなかったという。
質問は事件当日に移る。
弁護人「8月2日ですが、押尾さんからの不在着信に気づいて電話したんですか」
証人「はい。最初の電話はそうでしたね」
押尾被告から△△氏への連絡は、携帯電話を1度だけ鳴らして切る「ワン切り」やメールなどの方法があったという。
弁護人「押尾さんに呼び出されて『第一発見者として名乗り出てほしい』と言われたんですよね」
証人「はい」
弁護人「救急車を呼ぼうという提案はしたんですか」
証人「していないです」
弁護人「なぜですか」
証人「本人への情が勝っていたのと1年弱担当をして仕事が軌道に乗っていたので、その状況が非常にやるせなく感じました。私が救急車を呼ぼうと言えば芸能生活をあきらめてくれと言うことと同じだったので提案はできませんでした」
押尾被告は△△氏の方を見ずに前方を見つめている。
弁護人「女性が亡くなっているからという気持ちもありましたか」
証人「そういう気持ちもあったと思います」
弁護人は△△氏が平成21年8月末にエイベックスを退社する予定だったことを明かす。押尾被告は△△氏に自分が立ち上げる会社で雇うと言っていたという。しかし、△△氏にそういった気持ちはあまりなかったようだ。
証人「私はやりたいことは決まっていたので、押尾さんから手伝ってみないかという話があっただけです」
弁護人「そういう話もあったから(救急車を呼ばなかったの)ではないのですか」
証人「そこはとくに考えていません」
質問は□□氏が来てからの話に移る。△△氏が第一発見者になるという話が具体化していく。
弁護人「なぜ協力しようと思ったのですか」
証人「何とかこの現状を本人(押尾被告)に関係のないようにしようというのと、何をしても無駄だなという絶望感があり、複雑な気持ちでした」
弁護人「押尾さんからあなたが女性とセックスしてこういうことになったことにする、という話になりましたね」
証人「はい」
弁護人「押尾さんの口からその話が出ましたか」
証人「はい」
弁護人「話が違うじゃないかと」
証人「はい」
弁護人「あなたはそれを言いましたか」
証人「その考えに同意するつもりはなかったですが、その前に□□が否定したので」
□□氏は救急車を呼ぼうと提案し、その後、最後に駆けつけた押尾被告の友人の○○氏が119番通報した。押尾被告と□□氏、○○氏、泉田勇介受刑者(32)=麻薬取締法違反罪で実刑判決確定=は42階に上がっていき、△△氏は現場に残される。
弁護人「腹をくくって自分でなんとかしないといけないと思ったのですか」
証人「はい」
弁護人「携帯を捨てたのは押尾さんの指示ですか」
証人「いいえ」
弁護人「あなたの独断ですか」
証人「はい」
△△氏は携帯を捨てた直後に○○氏から「お前何してんの」と電話が来たと説明。押尾被告の持ち物について質問を受けるが△△氏は「記憶にない」と答え、弁護人の質問が終了した。
続いて男性検察官が再度、□□氏が119番通報をしようと提案したことについて質問する。最終的には最後に駆けつけた○○氏がかけたと証言する。
△△氏への検察側、弁護側双方の質問が終わり、向かって左から2番目の裁判員の男性が手を挙げて質問する。
裁判員「当日集まって、被告から現場の状況について説明を受けたとき、(押尾被告は)冷静でしたか」
証人「憔悴(しょうすい)して動揺していました」
裁判員「(話し合いの)主導権を握っていたのは誰ですか」
証人「基本的には押尾さんが中心にいましたが、そこまで露骨ではなく、みんなで頭を抱えてどうすればいいか考えていました」
裁判員「被告から『一生面倒見てやる』という提案を受けたときは何を期待しましたか」
証人「考えていませんでした」
裁判員「結果的に救急隊が到着したのは」
証人「ちょっと分からないですが10分ぐらい。かなり長いこと現場にいました」
続いて、向かって1番左側の裁判員の男性が質問する。
裁判員「押尾さんに対する忠誠心がすごく伺えますが、今の気持ちはいかがですか」
証人「自分の中で押尾さんに対する情があったが、今は女性が1人亡くなったことを軽んじていたことを反省しています。今も複雑ですが、ありのままをすべて話したいと思っています」
裁判員「押尾さんに言いたいことはありますか」
証人「ないです」
「ない」ときっぱり言い切った△△氏。押尾被告も目を合わせようとはしなかった。△△氏への尋問が終わり閉廷。押尾被告は山口裕之裁判長に向かって90度くらいの深々としたお辞儀をした。次回公判は7日午前10時から開かれる。