第2回公判(2010.9.6)

 

(2)「性癖が変なのと付き合ってる」「薬を飲ませたがる」 浮かび上がる被害女性の困惑

押尾被告

 元俳優、押尾学被告(32)と一緒に合成麻薬MDMAを飲んで死亡した飲食店従業員、田中香織さん=当時(30)=の知人で、芸能プロダクション社長の男性証人に、女性検察官が質問を続ける。

 田中さんは押尾被告と肉体関係を持った理由について、証人に「取り巻きが大きいから」と説明していたという。証人は「(押尾被告に)かわいがって頂ければ店の売り上げにもなるし、彼女の売り上げにもなる」「彼女は自分でお店を持つのが夢だったので、(押尾被告に)色々な支援をしてもらえると思ったのではないか」と、田中さんの心中を推測した。

検察官「あなたが田中さんとその話をしたのは、平成20年の年末ごろですよね?」

証人「はい」

検察官「最後に田中さんと会ったのは、いつですか」

証人「21年7月24日です。八王子の◇◇(法廷では実名)という、私の同級生の誕生会です」

 ◇◇氏とは、指定暴力団稲川会系組長の男性で、弁護側は「田中さんと何度か男女関係になったことがある」という◇◇氏の調書を証拠請求している。

検察官「そのときの会話で、記憶に残っているものはありますか」

証人「明け方までパーティーをしていたのですが、タクシーで帰ると高いし、もうすぐ始発が出る時間だったので『電車で帰るぞ』と言いました。それで、お店から八王子駅まで行く道中にした会話を覚えています」

検察官「そのときはどういう立ち位置でしたか」

証人「私が左で、彼女が右にいました」

検察官「どんな会話だったんですか」

証人「彼女が『変なのと付き合ってるんだよね』と言ってきました。『変なのって何?』と聞くと、『性癖が』と言われました。『道具か何か使うのか』と聞いたら、『薬を飲ませたがるんだよね』と言う。私は『薬ってシャブか』と聞きました」

 「シャブ」とは覚醒(かくせい)剤を指す隠語だ。

検察官「なぜシャブか聞いたのですか」

証人「僕の認識だと、一般的に薬というとシャブかなと思いました」

検察官「田中さんは何と答えましたか」

証人「『エクスタシー』と」

検察官「あなたは、エクスタシーとは何のことか知っていましたか」

証人「はい。MDMAです」

検察官「相手は、それをいつ飲ませたがると言っていましたか」

証人「性交の前。やる前です」

検察官「それからどんな会話をしましたか」

証人「(薬が)効くまで飲ませたがるというので、『なんだそいつ。誰だそいつ』と(聞いた)。もともと、彼女は内臓系が丈夫じゃなく、相談を受けていたので、『ここがやられんぞ』と言いました」

 証人は、自分の心臓の辺りを指さしながら、当時の状況を振り返った。

検察官「すると、田中さんは何と答えましたか」

証人「『でも、効くまで勧めるからしようがないよね』と。私はその相手が年上だと思っていたので、『(相手は)金持ってんのか』というと、『いや、若いんだよね』という。私は勝手な思いこみで、IT(業界)か私どもの業界(芸能界)だと思ったので、『ITか』と聞きました」

検察官「それに対して田中さんは?」

証人「『違う』と言いました。『自分の業界か』と聞くと、『まあ、そんなもん』と言っていました」

検察官「田中さんは相手の年齢について、何か言っていましたか」

証人「『じじいか』と聞くと、『いや、若い。自分と同じぐらい』と言っていました」

検察官「田中さんは、その会話のときに何か行動で示しましたか」

証人「彼女が右にいて、左にいた私のところに手を持ってきて、『こうやるんだよ』と言いました」

 証人は自分の右手を右から左に動かしながら、説明した。

証人「私は『なんだ、そいつ』と言いました」

検察官「あなたは、それをどういうしぐさと理解しましたか」

証人「当然、錠剤を飲む行為ですよね。こう、私の顔の前まで持ってきました」

 女性検察官が「何かをつまむしぐさですね?」と確認すると、証人は「はい」と答えた。押尾被告は、後方に座った弁護人に少し顔を向けた後、前に向き直って証人の話に耳を傾けている。

検察官「田中さんは、相手の具体的な名前は言っていましたか」

証人「まあ、言わなかったです。自分も彼女の兄貴分という認識でいたんでかなり注意しましたが、(田中さんは)『取り巻きがでっかいからさ』と言っていました」

 証人はさらに、田中さんが打ち明けた“夢”についても話した。

証人「そのころ彼女は女性と一緒に住み始めていたんですが、その子が子供を産んで、(田中さんは)『私が(子供の)父親になる』と言っていました。『今、私にとってチャンスなの。兄貴にも恩返しするから』とも話していました」

検察官「『取り巻きが大きい』と、そのときも言っていたのですね」

証人「はい」

 田中さんは「薬を飲ませたがる」という男の名前を、最後まで証人に明かさなかった。しかし、以前に押尾被告について話したときに使った「取り巻きが大きい」という表現を、このときも使用したという。

検察官「あなたは、その言葉を聞いてどう思いましたか」

証人「その男が、金を持ってる奴だと思いました」

⇒(3)女性の死亡報道で芸能人、銀座ホステス、薬…とつながり 知人「やられたと思った」