第2回公判(2010.9.6)
(12)罪着せようとしたマネジャーに「一生面倒見るから」 女性の携帯見て「まずいよね」
元俳優、押尾学被告(32)の元チーフマネジャー、□□(法廷では実名)氏に対する女性検察官による証人尋問が行われている。合成麻薬MDMAを飲んで容体が急変し死亡した飲食店従業員、田中香織さん=(30)当時=を前にして、□□氏や、部下の元マネジャー、△△(同)氏らと押尾被告が、田中さんの死亡の経緯などを隠蔽(いんぺい)しようとした様子が語られた。
押尾被告はメモを取りながら、質問する女性検察官や証人の方をじっと見つめている。
検察官「被告はどういう言い方で△△さんに罪を着せようとしましたか」
証人「『△△が知人の女性を連れ込んでセックスした後、その女性が亡くなったというのはどうか』と提案を受けました」
検察官「△△さんには被告は何を言っていましたか」
証人「『一生面倒見るから』と言っていました」
検察官「あなたは何を言いましたか」
証人「『女性の体内の体液を調べると押尾だと分かる』と言いました」
検察官「その後は?」
証人「別な提案をしてきました。『女性を呼んだ後にセックスをして、仕事があるんで部屋を出て、△△に見に行かせたところ、女性が死んでいた』という提案をされました」
検察官「それを聞いてどう思いましたか」
証人「『マンションには防犯カメラがあるから意味がない』と言いました」
検察官「いずれも△△さんを犯人にしようと?」
証人「はい」
押尾被告が田中さんの死亡の責任を、マネジャーの△△氏に必死に押しつけようとした様子が詳細に語られた。続いて、その場に押尾被告の友人で、押尾被告にMDMAを渡したとして、麻薬取締法違反罪で懲役1年の実刑判決が確定した泉田勇介受刑者(32)が到着した後のことが語られる。
検察官「その後、他に誰か来ましたか」
証人「次に泉田が来ました」
検察官「何時ごろですか」
証人「(午後)9時ごろです」
検察官「泉田さんに被告は何か言っていましたか」
証人「僕に話したよりも詳細ではなく、あらましを語っていました」
検察官「それに対して泉田さんは?」
証人「女性が薬の常習者で、押尾と一緒に摂取した薬と今までに飲んでいた薬が体内でクラッシュしたのでは、と言っていました」
次に、田中さんの持ち物の“処分”の仕方について相談が行われた様子が語られていく。
検察官「持ち物に提案はありましたか」
証人「ソファの近くに女性のバッグがあり、その中に携帯電話が見えました。携帯電話が見えたとき、押尾が『まずいよね』という話をしだしました」
検察官「何がまずいと言いましたか」
証人「着信履歴やメールが携帯に残るとまずいと言いました。自分は、たとえこの場で消しても、携帯会社に履歴が残っているから結局ばれるという話をしました」
検察官「次には誰が来ましたか」
証人「◯◯(法廷では実名)が来ました。来てから119番しました」
◯◯氏とは、押尾被告の友人で、年配で仲間内では先輩格だったとされ、右往左往している押尾被告らを一喝し、すぐに119番通報したとされる人物だ。
検察官「119番通報した後、被告は?」
証人「自分の荷物をカバンにつめて、別の部屋に向かおうとしました」
検察官「それはなぜですか」
証人「救急車が来て状況を話す前にクールダウンしたいと言って、上の階に向かいました」
検察官「1人で向かったのですか」
証人「『□□ちゃん来てよ』と被告に言われ、一緒に行きました。△△が押尾について行くと、罪を着せられるんではと思って、僕が一緒に行きました」
検察官「泉田さんとあなたと被告人はどこに行きましたか」
証人「42階の01号室だったと思います」
検察官「42階での被告の様子はどうでしたか」
証人「だいぶ、落ち着きを取り戻したようでしたが、つめをかんだり体を揺すったりしていました」
検察官「被告の言動は?」
証人「泉田に『薬を消す薬はないのか』と言っていました」
検察官「それに対して泉田さんはどうしましたか」
証人「薬を消す薬の手配をしていましたが、なかなか難しそうでした」
検察官「押尾被告のマネジャーを務めていて、こうして法廷で被告の面前で話すのはどのような気持ちですか」
証人「役者として才能がある人間だったので残念です。遺族や田中さん、仕事関係に迷惑をかけたのは申し訳ない気持ちでいっぱいです」
ここで突然、男性弁護人が、検察官の質問を遮るように挙手して、山口裕之裁判長に質問の機会を求めた。
弁護人「□□さんが(米国の)ラスベガスに滞在していたことで質問させていただきたい」
検察官「異議はありません」
弁護人「押尾被告のアメリカでのメールのやりとりを示します」
男性弁護人は、押尾被告がラスベガスに滞在中に現地の知人とやりとりしていたメールの履歴を示そうとしたところ、検察官は「メールには証人の知らないことしか書かれていない。証人に示すことの理由を明らかにしてほしい」と異議を申し立てた。弁護人はこれを受け、メールのやりとりの前のラスベガス滞在中の状況について質問していく。
弁護人「あなたは昨年、ラスベガスに行きましたね。何日間ぐらいですか」
証人「2日ぐらいです」
弁護人「ラスベガスを出発して帰国した日は?」
証人「日数は覚えてないです。7月末だと思いますが、具体的には覚えていません」
弁護人「捜査段階の供述調書では7月24日に出発したと書いてますが、間違いないですか」
証人「間違いないと思います」
弁護人「□□さんがラスベガスを出発した時期と、被告が(麻薬の)TFMPPを入手した時期を一応立証したいのが、メールの履歴を示す理由です」
弁護人は再度、証人が座っている証言台横にメールの履歴を示した。法廷内のモニターや裁判員、検察官らの手元のモニターにも映し出されている。
弁護人「これは押尾被告がアメリカで使っていた携帯電話のメールの履歴です。あなたが出発したのはどのメールとどのメールの間か、お答えください」
日本語と英語の混ざったメールの一覧が示された。
弁護人「7月24日午前11時半ぐらいにラスベガスを出発しましたか」
証人「はい」
弁護人「帰国前にカジノに行ったのは何時ぐらいですか」
証人「行った時間は確かなことは覚えていませんが、夜の9時過ぎだったと思います」
弁護人「誰と行きましたか」
証人「押尾と僕と押尾の友人、今回の旅行のコーディネーターをしてくれた人、それともう1人の計4人です」
弁護人「カジノではもうかりましたか」
証人「いいえ。日本円で10万円いかないぐらい損しました。押尾も同じぐらい負けていたと思います」
弁護人「カジノからホテルに戻ったのは何時ごろでしたか」
証人「4時前ぐらいだったかと。それも1年前ぐらいなので詳しいことは分かりません」
弁護人「カジノからホテルに戻って押尾さんからサプリメントボトルの入った荷物を寝る前に預かりましたか」
証人「寝る前に預かりました」
このサプリメントボトルには麻薬のTFMPPが入っていたとされている。
弁護人「カジノから帰ってきて明け方に出国したんですね」
証人「はい」
押尾被告は弁護人の質問の間、弁護人の方をじっと向いている。
弁護人「メールの履歴をちょっと見てもらいたいが、24日午前0時3分にアメリカの知人にあてたメールで、日本語に訳すと『オーケー、今ベネチアンにいる』というメールがあります。ベネチアンはホテルの名前だと思いますが、あなたも同じホテルにいましたか」
証人「いたと思います」
弁護人「押尾被告がアメリカで使用していたメールの履歴を詳細に検討していますが、23日ではなく、22日に『ジャングルに行かないか』と日本人にメールしているので、押尾被告がカジノに行ったのは、23日の夜ではなく、22日の夜ではないですか」
弁護人は、両手を腰に当て、自信たっぷりに証人の方を向いて質問した。
証人「1年前なんで自分の持っている旅程表と照らさないと思いだせません」
弁護人「あなたは23日の午前4時ごろに『了解です。ゆっくり休んでください。部屋は2821です』と被告にメールしましたか」
証人「履歴があれば送ったんだと思います」
弁護人「23日にラスベガスから出発する前日に『おはようございます。靴を持っていないので砂漠用のを買いに行きます』とメールしましたか」
証人「はい」
弁護人「砂漠で撮影をしたんですか」
証人「はい。そうだったと思います」
弁護人「このメールは11時ごろですが、明け方に寝て、いつもより遅く起きて砂漠に行ったんですかね」
証人「そうだったと思います」
米・ラスベガス滞在中の、押尾被告と被告の現地の知人や証人とのメールのやりとりなどについての質問に続き、質問は帰国後のことへと移っていく。
弁護人「8月2日の夜のことを若干聞かせてください」
「あなたは、8月2日、事件のあった日の夜、ヒルズの2307号室に行って、押尾さんから話を聞いていますね。押尾さんは女性が死亡してからどれくらい時間が経過していると言っていましたか」
証人「時間については話していませんでした」
弁護士「押尾さんと泉田さんはどんな話をしていましたか」
証人「2307号室では、なぜ女性が死んでしまったんだろう、と話していたのを覚えています」
弁護人「具体的には?」
証人「泉田が『彼女が常習なら、ここに来る前になんらかの薬をやっていて、2307で摂取した薬とけんかして死んでしまったのではないか』と話していました」
弁護人「ほかには?」
証人「今、覚えているのはそれくらいです」
弁護人「押尾さんが携帯をどこかに処分するように具体的に指示をしていたか」
証人「具体的に指示をしていたことはないです」
証人は、淡々と答えていく。
弁護人「最初に麻布署に呼ばれたのはいつですか」
証人「8月3日だったと思います」
弁護人「どんなことを聞かれましたか」
証人「そこの部屋で何が起こったのか、時系列に。そこにいた人間の関係について」
弁護人「押尾さんに頼まれたサプリメントボトルの話を警察に話したのは」
証人「明確に覚えていないが1週間くらい経過していたと思う」
男性検察官が再び、質問に立った。
検察官「(押尾被告から)サプリメントボトルを預かったのは、出発の日の朝という記憶が強いのか、カジノから帰ってきた日の明け方という記憶が強いのか」
証人「出発の日の朝、というかそれしかない。彼からサプリメントを預かってそのまま飛行場に向かっているのでぼくがラスベガスを立つ日で間違いありません」
麻薬が含まれているサプリメントボトルを預かった日について、弁護人、検察官ともに細かく質問した。検察官が質問を終えた。押尾被告は背中をやや丸め、表情もない。
裁判長が30分間の休廷を告げた。