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(11)小室被告「音楽を糧に、もう一度立ち直りたい」

弁護側は、犯行に至る経緯として、小室被告が当時置かれていた厳しい経済的環境を説明する。

弁護人「平成11年以降、被告人とは直接関係のない歌手が台頭したり、被告人の楽曲が飽和しすぎたことなどのためヒット曲に恵まれなくなり、一時は数億円から十数億円あった所得が、急速に減少するに至った。そのうえ、創業した事業が優れずにプロデューサー印税を失い、離婚した前妻に多額の慰謝料の支払いを約束したり、レコード会社から前受けしていた18億円に及ぶプロデューサー報酬を返還するべく、多額の借り入れをするなどしたため、被告人は経済的に極めて厳しい状況におかれることとなった」

その上で弁護人は、民事訴訟での和解金額が被害男性に弁済されていることを強調。「加害者としてなすべきことを尽くした」と評価するよう求めた。

弁護人「被告人は保釈後、弁済に努めることが最大のつとめであると認識し、履行のための努力を試みた。しかし、著作権収入の大部分を差し押さえられ、保釈中で新たな音楽活動を行うことができない被告人にとって、高額な弁済をすることは相当な困難だった。しかし松浦証人から支援を受け、債務を全部履行したものである」

続いて、小室被告が真摯(しんし)に反省していると主張する弁護人。隣に座る小室被告は静かに聞き入っている。

弁護人「被告人は当時を振り返り『被害者の方をだました私自身が一番悪いことくらいよく分かっておりました』としており、責任を自覚していた。逮捕、勾留後は、一切弁解することなく素直に検察官の取り調べに応じ、進んで自白している。また勾留中には『2本のレール』と題する書面を作成し、『私は車輪が狂ったように、もう1本のレールをたどりだしてしまった』『最後はとうとう皆様に急ブレーキをかけて頂き、虚構の列車はやっと止まりました』と述べている」

弁護側は、小室被告の将来について「エイベックス・グループの支援により再犯の恐れはない」と主張する。

弁護人「本件は、被告人が多額の負債の支払いや自らの生活費の確保のため資金繰りに窮し、金員を詐取した事案。しかし、今後はエイベックス・グループの支援のもと楽曲の制作などを行う予定で、生活費や負債の返済原資を安定的に入手できることは明らかである」

社会的制裁が大きいこと、音楽分野での業績など、小室被告に有利な事情を続ける弁護人。

弁護人「阪神大震災の被災地に楽曲の著作権を寄付したり、国連薬物撲滅計画に貢献した。入院中の筋ジストロフィー患者らを訪問し、患者らが結成したバンドとセッションを行うなどして、患者らを励ましたこともあった」

「筋ジストロフィー患者らの減刑嘆願書のほか、友人、知人をはじめ、音楽ファンらから多くの減刑の嘆願が行われている。また、音楽業界に関係する著名な人物らは、被告人の音楽業界などに対する貢献をかんがみ、その才能が生きる機会が失われることを惜しみ、寛大な処分を求めている」

最終弁論の締めくくりとして、弁護人は裁判所に対し執行猶予付きの刑を求めた。

弁護人「以上に述べたとおり、被告人に有利な事情も総合的に考慮いただき、今回に限り被告人を、執行猶予を付した刑を賜りたく、弁護人の意見を述べるものである」

弁護人が着席。最後に裁判長が小室被告を証言台に促す。

裁判長「最後に言いたいことはありますか」

小室被告「本日は被害者にも来ていただき、直接おわびの言葉も述べました。心から迷惑をかけた。心から反省しています。培ってきたものはすべて失った。残ったすばらしい仲間と音楽を糧に、もう一度、一から立ち直りたいと心から思っています」

こう意見を述べ、深々と頭を下げた小室被告。裁判長は判決公判の日時を「5月11日午前9時45分から」と告げ、午後1時、閉廷した。

⇒第4回公判