(1)小室被告「改めて音楽しかないと思った」
音楽著作権の譲渡を個人投資家の男性に持ちかけて5億円をだまし取ったとして、詐欺罪に問われた音楽プロデューサー、小室哲哉被告(50)の第3回公判が23日午前10時、大阪地裁(杉田宗久裁判長)で始まった。
この日は、検察側の論告・求刑と弁護側の最終弁論が行われ、結審する予定。一方、それに先立ち小室被告本人への被告人質問なども実施される。今年1月の初公判では「被害者に多大なご迷惑をかけ、同時に多くの関係者にもご迷惑をかけたことを、心よりおわびします」と謝罪した小室被告。法廷で発言するのは約3カ月ぶりで、被告人質問の行方が注目される。
大阪地裁201号法廷。報道機関による法廷内の代表撮影が終わった後の午前10時、小室被告が入廷した。公判も3回目だからだろうか、比較的落ち着いた様子で裁判長に一礼し、過去2回の公判と同様、2人の男性弁護人に挟まれるように着席した。
冒頭、右陪席の裁判官が異動したことにより公判手続きを更新するため、裁判長が小室被告に対し、証言台の前に立つように促す。その上で裁判長は、再度、小室被告の意見を確認する。
裁判長「被告人の言い分はすでに聞いていますが、その後、修正などはありますか」
小室被告「ございません」
裁判長「分かりました。元の席に帰ってください」
「本日は、基本的に弁護側の立証を開始するということで。では弁護人どうぞ」
弁護側は弁2〜5号証を証拠として提出。弁2号証は小室被告は被害者の個人投資家の男性に対して送った謝罪文など関連書類。弁3、4号証は古くからの友人や関係者の嘆願書関係。5号証は小室被告が果たした社会貢献などにまつわるものだという。
弁護人「それから、証拠物として、ファンの方々が減刑を求める署名がありまして、6000人分。その他の手紙などがあります」
これら弁護側の証拠について検察側は、2号証に対して捜査報告書を提出する以外は同意。一方、減刑を求めるファンの署名などの証拠物については、「裁判所として存在を確認する程度にとどめていただきたい」とくぎを刺した。
裁判長「それでは証拠はすべて採用します。順次、朗読、要旨の告知をお願いします」
弁護人「弁2号証は、謝罪の意を伝えるため、第1回公判の後に謝罪文を作成し…」
ここで裁判長は弁護人の要旨の告知を遮り、2号証本文の朗読を求めた。
弁護人「謝罪文をめぐる経緯ですが、被害者の代理人に謝罪文を送付したことを告げると、「事前に(送付することを)連絡すべきだ」と言われました。そして、代理人から当方に内容証明が送られてきて、内容は『文書を送りつけることについて一言も連絡がなかった』というものです。そこで小室被告に確認すると、あらかじめ(要件を)伝えたうえで送付することを希望しました。そこで代理人に電話をすると、『被害者は立腹しているので、もう終わりにしましょう』と拒否されました」
裁判長「その作成した謝罪文は、被告人の自筆ですか。それなら被告人に自分で読み上げてもらいましょうか」
裁判長の意向により、小室被告本人が謝罪文を朗読することになった。小室被告はそのまま席から立ち上がり、頭を2、3度掻いたあと、謝罪文を読み上げる。静まりかえった法廷に、ややか細い小室被告の声だけが響く。
小室被告「前略、私が大きな過ちを犯したことで、多大なご迷惑をおかけしたことをおわびします。詐欺事件で大阪拘置所に入っていたときに、さまざまなことを考えました。大きな過ちを犯したと反省し、おわびの気持ちを表そうと思いました。一刻も早く謝罪しようと思いましたが、公判中でしたし、被害弁償することが第一と思って過ごしてきましたので、結果として、おわびがこの時期になってしまいました」
謝罪文は、今後の自らの身の振り方などに言及していく。
小室被告「拘置所にいる間に考え直しました。(事件の)当時は、本来の仕事である音楽活動の創作も減った状況でした。しかし、改めて、私には音楽活動しかないと認識しました。今までの生活を改めるのはもとより、生まれ変わりつもりで過ごし、許されるなら音楽で社会貢献していきたいです。平成21年3月23日、小室哲哉」
どういう思いで自らの謝罪文を読み上げたのだろうか。小室被告は表情を特に変えないまま、裁判長に頭を下げ、着席した。続いて被害男性の代理人が送付した内容証明について、弁護側が読み上げる。
弁護人「文書を送りつけることに一言の連絡もないし、民事訴訟の和解条項についても、お金だけが振り込まれ、札束でほほをたたかれた感じだ。文書には回答しないまま返送します」
これに対し、検察側は捜査報告書として、被害男性の代理人から届いた手紙を読み上げる。
検察官「第1回公判の感想ですが、当方は失望と怒りを覚えた。小室被告の服装もノーネクタイだし、(起訴事実に対する認否も)あいまいな発言だった。本当に反省しているのか」
続く弁3号証は、旧知の友人や関係者による嘆願書など。弁護人によると、音楽評論家の湯川れい子さんや音楽会社の社長、小室被告とバンド「TM NETWORK」を組む木根尚登さんらが名を連ねているという。